樋口由紀子
吊り橋を相思相愛でもないが
広瀬ちえみ (ひろせ・ちえみ) 1950~
「吊り橋」と「相思相愛」が絡み合うとは思いもしなかった。でも、言われてみれば関係ありそうな気もしてくる。あんなに揺れる吊り橋を、あんなに恐い目をして、けれども、心躍りして、ワクワクしながら、助け合って、一緒に渡るのだから、それなりの思いと緊張があってもよさそうである。
そんなドラマ性をさっぱりと違う脈絡に移す「でもないが」に不意をつかれる。的の外し方や捻り方があっけらかんとしているが強力である。川柳の醍醐味が潜んでいる。話がいたずらっぽく脱線し、ユーモラスな形に落ち着いていく。結局はキャーキャーと叫びながら、「相思相愛」という感情をおいてきぼりにして、吊り橋を渡り切るのだろう。『雨曜日』(2020年刊 文學の森)所収。
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