樋口由紀子
キリンでいるキリン閉園時間まで
久保田紺 (くぼた・こん) 1959~2015
動物園で見るキリンはおとなしい目をして、のんびりと首を伸ばして、餌を食べ、ゆらりゆらりと歩いている。色川武大がどこかで書いていたが、その姿は「平和に遊んでいる」ようで、見ているこちらも平和な気分になる。
それがごくあたりまえのキリンで、動物園が閉まった後も、その姿は何ら変わらないと思っていた。しかし、「閉園時間まで」と言われて、はっとする。それは来園者用の、演出用のキリンだったのだ。人前では無理をして、期待どおりのキリンでいてくれている。色川武大でさえも、「平和に遊んでいる」と見ていたくらいのキリンを作者はこのように見る。たぶん、そんな姿を自分自身と重ねているのだろう。閉園後のキリンはやっと解放され、自由に、首だって、くにゃくにゃにして、せかせかと歩いているのかもしれない。そんなキリンと出会ってみたい。『大阪のかたち』(2015年刊)所収。
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