樋口由紀子
夕焼の中の屠牛場牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛
木村半文銭 (きむら・はんもんせん) 1889~1953
昭和11年に作られた川柳である。これも写生句といえるだろうか。放牧されている牛を夕焼けの中で見ることはある。それは一枚の絵になる。しかし、「屠牛場」となると事態は一転し、夕焼けの抒情は一気にかき消される。それは作者の発見ではなく、意図だろう。夕焼けの美しさは儚く、真っ赤な彩は現実を刻印する。夕焼けが消えれば漆黒の夜がやってくるように、多くの牛の運命も否応なく思いおこさせる。
「牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛」がとびきり斬新で、言葉の力がストレートに発揮されている。牛たちの姿が鮮明に次々と現れ、牛一頭ずつのいのちを見据えているまなざしがある。どんな表記よりも濃密に、大きな存在感を持つ表現になっている。
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