相子智恵
父の日や煮れば骨出るスペアリブ 本多遊子
父の日や煮れば骨出るスペアリブ 本多遊子
句集『Qを打つ』(2021.5 角川文化振興財団)所載
〈煮れば骨出るスペアリブ〉は、料理としてはじっくりと煮込まれていて美味しそうではあるのだけれど、〈骨出る〉に着目したことにドキリとしてしまう。さらに上五の〈父の日や〉との取り合わせによって、どことなく複雑な感情がもたらされているのだ。実際には父の日に、父が好きなスペアリブを煮込んでいるだけかもしれないのだが。
家族というのは近すぎるがゆえに様々な衝突があるものだ。血のつながっている者同士の諍いや争いを「骨肉の争い」と呼ぶこともあって、〈骨出る〉というスペアリブの写生と〈父の日〉という季語の取り合わせの後ろに、どこか不穏な感情が立ち上がる。
しかし、この一句自体はあくまでおいしそうな料理の句なのであり、時間をかけてスペアリブをコトコト煮込むような余裕もあるのだから、「そんな喧嘩も、かつてあったなあ」とでもいうくらいの過去になっているのであろうな……と想像させる。
家族という不思議な関係、家族でいる不思議な時間の長さを、取り合わせの妙味で味わえる一句である。
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