樋口由紀子
風の日はおぼろ昆布をひとつまみ
天谷由紀子 (あまや・ゆきこ)
「風に日」は風が爽やかに吹いている日というよりは風の強い日だろう。あるいは心に風が吹いて、ざわざわしているのかもしれない。大したことではないと自分に言い聞かせるように、おぼろ昆布をひとつまみ口に入れたり、汁物に入れたり、温かいご飯にのせる。おぼろ昆布の塩味とやわらかい感触が心をやわらげてくれる。
内容はおぼろ昆布をひとつまみしたというだけの日常を書いている。生きているとどうすることもできないことが起こる。なにがあっても気持ちを切り替えていくしかない。なんでもなさそうな顔をして、人はこの世を遣り過す。「風の日」と捉えてからの一句の流れがきれいで、「おぼろ昆布」がいい味を出している。書かれている以上の、言葉にはできない気持ちが含まれている。「蟹の目」(2021年刊)収録。
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