相子智恵
保食(うけもち)の神の放尿鳩翔つや 安井浩司
句集『天獄書』(2022.11 金魚屋プレス日本版)所収
保食神(うけもちのかみ)は『日本書紀』に出てくる食物をつかさどる神(女神とされる)。口から飯や魚や動物を出して月夜見尊(つくよみのみこと)を供応したため、汚いと怒った尊に殺された。死体の頭からは牛馬、額から粟、眉から蚕、目から稗、腹から稲、陰部から麦と大豆と小豆が生まれたという。
掲句、この時陰部から(放尿として)生まれた麦と大豆と小豆に、鳩が一斉に群がり、やがて飛び立ったさまを想像した。鳩は一羽ではないのだろう。美しい白い鳩が浮かんだ。
〈麦秋の厠ひらけばみなおみな〉という安井の有名句をふと思い出したりもした。聖と俗、生と死が異界の鍋で混ざり合ってぐつぐつと煮えている。『天獄書』は安井が生前最後にまとめた遺著であり新句集(第18句集)である。
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