相子智恵
大寒の底に落ち合ふ峡の径 伊藤幹哲
句集『深雪晴』(2022.9 文學の森)所収
〈径〉の字が使われているので、幅の狭い小道である。「大寒の」の「の」は軽い切れと読むのが普通だろう。峡谷の底に、あちら側の山からの小道と、こちら側の山からの小道が落ち合っている。峡谷の底には水の流れがあるようにも想像された。小さな橋がかかっているのかもしれない。高い山に囲まれた小さな集落を思う。
さらに掲句は頭から読んだ時に、すっと〈大寒の底〉と読めるようにできている。つまり、今が寒さの底である、という意味も二重写しになってくるのだ。硬質な美しさのある一句である。
大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太
を思い出した。掲句も龍太の句も、共にK音がよく響く作りになっていて、調べの中にも厳しい美しさが感じられてくる。
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