樋口由紀子
小芋一トン注文したまま母逝きぬ
石田柊馬 (いしだ・とうま) 1941~2023
まるで漫画である。母が死んだというだけでもたいへんなのに、死後に小芋が一トンも届けば、どうしたらいいのかわからなくなる。生前に母が注文したらしいが、死人に理由は聞けないし、文句も言えない。代金だって、半端ではない。泣いて、驚いて、怒って、戸惑う。母の死より、小芋のことで頭がいっぱいになる。
母恋や母物の型にはまらない、まったく固有の存在感のある母を書いた。母のことはわかっていたと思っていたが、すべてを理解できていたわけではなかった。母とはナニモノだったか。滑稽のなかに哀しさがあり、とても変なトーンで描き出している。『ポテトサラダ』(KON―TIKI叢書 2002年刊)所収。
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