樋口由紀子
窓一つそれに向き合う窓も一つ
大山竹二 (おおやま・たけじ) 1908~1962
モノクロ写真を見ているような川柳である。哀歓を書いているのではないのに哀歓を感じる。二つの窓に招き入れられる。そこに在るものをただ在ると書いただけの、とりたてて言うほどのことでない、どこにでもある景が作者にはたらきかけてきた何かがあったのだろう。
向き合っている窓が日常を離れていくような錯覚におちいる。窓自体は向き合っているつもりはない。向き合っていると作者が解釈したのだ。言葉が与えられ、現実の描写が幻想の光景になる。『大山竹二集』(竹二句集刊行会 1964年刊)所収
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