相子智恵
わが影へ膝折りたたむ潮干狩 しなだしん
句集『魚の栖む森』(2023.9 角川文化振興財団)所収
砂浜にしゃがんで浅蜊を採る潮干狩。そのしゃがむ姿勢を〈わが影へ膝折りたたむ〉と捉えたところが新鮮だ。
春の行楽として、宝探しのようなワクワク感がある潮干狩だが、〈わが影〉に向かって膝を折るしぐさをあえて描いたところに、楽しさの中の寂しさ、ふっとした春愁のようなものが立ち現れてくる。春の日差しなので影も柔らかく、寂しすぎない。楽しさと憂いの匙加減が絶妙な一句だ。
水辺の生き物が題材となった美しい句を他にも引こう。
魚眠るときあざやかなさくらかな
魚の栖む森を歩いて明易し
一句目、夜桜だろうか。眠る魚の静けさと、誰も見ずとも咲き誇る桜の華やかさがうまく溶け合っている。二句目は表題句。水に栖む魚であるが、池か川のある「森」のほうに着目することで意外性をもたせ、泳ぐ魚と歩く自分の対比もあり、〈明易し〉で夢の中のような感覚になる。
一句の中に遠近や明暗などを含めた対比効果を活かすことに長けており、必然的にドラマ性のある句が多く、読みごたえがあった。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿