〔今週号の表紙〕第212号
近 恵
タンポポに彩られた浜の芝地に立つと、海からの風はいっそう強くなった。向こうに見えるタンネエサシ〔※〕の根本からは、北側へと砂浜が広がる。砂浜は程なく岩礁となり、陸は広大な芝地である。風を避け、芝地から海沿いのクロマツの林の小道へと足を向けた。
この冬は雪が多かった。春先に大っきな地震が来て、それから見たこともないような津浪が来た。浜は舟も小屋もぐれっともっていかれた。防波堤も崩れた。それでもいくつかの舟は残った。今、土は息を吹き返し、波を被ったところからも草の芽が出ている。小道は蛇行しつつやがて岩場まで降りる。しばし視界が開け、ウミネコの糞を浴びた真っ白な岩が見えた。そこからもう少し歩くと、ぽっかりと小さな入り江に出た。ふいに空が広がった。
古から変わらぬ風と波と草木の音、ウミネコと小鳥と、時々雉の鳴き声。天然の岩礁に守られるようにしてあるひっそりとした入り江の漁港は、かつてみちのくの民が「エミシ」と呼ばれ、大和朝廷から怖れられたそれよりも前から漁労が営まれていたのではなかろうか。
種差海岸の天然芝生地から北上し、淀の松原、深久保漁港、大須賀海岸を経て葦毛崎展望台まで約5.2kmに及ぶ種差海岸遊歩道は、5月から9月頃まで400種とも600種とも言われる山野草が花を咲かせる。
〔※〕タンネエサシ:たねさし。語源は「タンネ・エサシ」が縮まったものと考えられる。アイヌ語で「長い・岬」の意。アイヌ語地名研究家 故山田秀三氏の解釈による。
撮影日:2011年5月6日
撮影地:青森県八戸市 深久保漁港
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