樋口由紀子
ある桜扁桃腺を病んでをる
吉田健治 (よしだ・けんじ) 1939~ ※吉は土
今年は全国的に桜の開花が早いらしい。地球温暖化で年々早くなっている。コロナ禍の中でも今年も桜はきれいに咲いてくれる。桜にも病はあるだろうが、まさか扁桃腺になるわけはない。しかし、作者はこの世の道理や法則だけでは通じないことを感じ取ったかのように桜を眺めている。
「扁桃腺」というのが微妙。本人的にはつらく、違和感をたえず抱えるが、傍目には見えにくく、わかりにくい。桜特有の病気であったのなら、ふーんと通り過ぎていっただろう。「ある桜」というのもポイント。すべての桜ではなく、特定の桜に感情移入している。自分と同じにおいを嗅ぎとったのかもしれない。視線がとても新鮮でナイーブである。『青い旗』(2013年刊 抒情文芸刊行会)
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