相子智恵
囀りの影といふ影天降(あも)りくる 岡田一実
囀りの影といふ影天降(あも)りくる 岡田一実
句集『光聴』(2021.3 素粒社)所載
春の空には繁殖期の鳥たちが囀り、行き交う鳥たちの影が、天から地上に降りてきている。
降りてくるのは影だけではない。影がくっきりと降りてきているのだから、春光はそれ以上に燦燦と降り注いでいることだろう。〈影といふ影〉という言葉によって、影が点描のような効果をもたらしていて、逆説的にまばゆい光が感じられてくる。そしてもちろん、天からは鳥たちの〈囀り〉もまた、降り注いでいるのだ。
この句が視覚的に見せているものは、実は「影」しかないのだということを忘れてしまうほどに、影から連想される光や鳥たちの囀りの賑やかさ、「天降る」という万葉時代の神々しい言葉の選択によって、一句が瑞々しく賑やかな生命力を帯びている。
鳥そのものを描かずに鳥たちの恋の喜びを、ひいては春が来た喜びを、影と声だけで多面的に描き込んだ、祝祭的な気分のある一句である。
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