浅沼璞
文学史的には町人作家と言われる西鶴ですが、そんな彼と縁の深い展示が三井記念美術館(日本橋)で開催中です。
越後屋開業350年記念特別展「三井高利と越後屋」―三井家創業期の事業と文化―
会期は6/28~8/31ということで、猛暑のなか、足を運んでみました。
図録の章立てを参考に展示を分類すると――
Ⅰで愚生の目をひいたのは『釘抜(くぎぬき)越後屋店頭之図』。
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Ⅰ 黎明期の人々と遺愛品
Ⅱ 創業期の歴史と事業
Ⅲ 享保~元文年間の茶道具収集
Ⅳ 三井家と神々
という感じです。Ⅱ 創業期の歴史と事業
Ⅲ 享保~元文年間の茶道具収集
Ⅳ 三井家と神々
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三井の暖簾印といえばあの「丸に井桁三」が浮かびますが、江戸本町で開業の頃は「違い釘抜紋」だったようで、その暖簾印のある黎明期の店頭風景が描かれています。
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江戸店は駿河町(今の日本橋)に移転後のもので、呉服店と両替店が向かい合った先には雄大な富士山が描かれています。その江戸と大坂(浪花)では今につながる「丸に井桁三」の大暖簾がかけられているのですが、京の本店(ほんだな)は無地の大暖簾で一見地味な印象を受けます。とはいえ本店の絵画はほとんど残っておらず、貴重な一幅とのこと。
またⅡには西鶴の版本『日本永代蔵』もありました。
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巻一から六まで全6冊が展示され、2代目高平を描いた巻一ノ四「昔は掛算(=掛け売り)今は当座銀(=現金売り)」のページが見開きで置かれていました。
ツケが当たり前の時代に「現金、切り売り、掛値なし」のデパート商法を導入したのが2代目高平でした。西鶴はそのモデル小説を書いたわけです。
〈三井九郎衛右門*といふ男、手金の光り(=所持金の威力)、むかし小判の駿河町といふ所に、おもて九間に四十間(≒16mに72m)に、棟高く長屋作りして、新棚を出だし、よろづ現銀売りに掛値なしと相定め……〉*正しくは八郎右衛門高平。
Ⅲを飛ばしてⅣでは隅田川東岸、向島の三囲(みめぐり)神社に関する資料が目をひきました。三囲神社は越後屋(駿河町)からみて鬼門除けの位置にあり、三井家の信仰対象となったようです。
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まずは西鶴と親交のあった宝井其角の、その有名な雨乞いの句短冊に目をとめました。
夕立や田を見めぐりの神ならば
(旱が続いているが、田を見めぐるという名の神なら、夕立を降らせてくれよう)
これを詠んだ翌日、じっさい降雨となり、その評判からパワースポットになったとの由。それかあらぬか隅田川沿いの寺社や古跡を描いた絵地図の摺物の、その三囲稲荷の下には其角の発句が多行形式で引き写されていました(こちらは「田も」の句形でしたが)。
むろん周囲に描かれているのは文字どおり田んぼばかりの風景です。
残暑厳しき折、江戸の風に吹かれてみるのもまた一興かと。
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