浅沼璞
歌名所見に翁よび出し 打越
住替て不破の関やの瓦葺 前句
小判拝める*時も有けり* 付句(通算30句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】二ノ折、表8句目。雑(懐旧)。 小判=金貨のひとつ。一枚で一両。
*〈往古は小判珍しきこと、「慶長見聞集」巻六「其比(天正中)金一两見るは、今五百两千两見るよりもまれなり」〉(定本全集・頭注)
*平句の「けり」については番外篇11(http://hw02.blogspot.com/2022/10/11.html)に詳述。
【句意】かつては(珍しかった)小判を拝んだ時代もあったなぁ。
(自註には、病人が小判を拝む風習への言及もあり。)
【付け・転じ】打越・前句=阿古屋松の現況から不破の関の現況へ。前句・付句=不破の関の現況から懐旧(および病体)への転じ。
住替て不破の関やの瓦葺 前句
小判拝める*時も有けり* 付句(通算30句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】二ノ折、表8句目。雑(懐旧)。 小判=金貨のひとつ。一枚で一両。
*〈往古は小判珍しきこと、「慶長見聞集」巻六「其比(天正中)金一两見るは、今五百两千两見るよりもまれなり」〉(定本全集・頭注)
*平句の「けり」については番外篇11(http://hw02.blogspot.com/2022/10/11.html)に詳述。
【句意】かつては(珍しかった)小判を拝んだ時代もあったなぁ。
(自註には、病人が小判を拝む風習への言及もあり。)
【付け・転じ】打越・前句=阿古屋松の現況から不破の関の現況へ。前句・付句=不破の関の現況から懐旧(および病体)への転じ。
【自註】近年、世の人、それぞれに奢りて、衣食住の三つの外に十種香(じしゆがう)の会、楊弓(やうきう)のあそび、立花(りつくわ)、能はやし、面々の竈将軍*。我が広庭(ひろには)に御所車を拵へての遊楽も外よりとがむるなし。むかし、黄金(こがね)いたゞかせければ、大かたなる病ひはなほりける*、と也。
*竈(かまど)将軍=家の中だけで威張る主人(諺)
*「病人に小判の削屑を煎じて飲ませ、臨終の際小判を拝ます話あり」(定本全集・頭注)
【意訳】近ごろ世間の人は、それぞれ身分に応じて贅沢になって、衣食住という三つのほかに、お香の会を催したり、遊戯用の小弓に興じたり、生け花、お能とお囃子*。おのおの一家の主、自分の玄関先に牛車を誂えての遊楽も他人にとやかく言われることはない。むかしは黄金を頂かせれば、たいがいの病気は治ったということである。
*贅沢の具体例については『西鶴織留』(1694年)に類似の記述あり。
【三工程】
(前句)住替て不破の関やの瓦葺
むかしの事の懐かしきかな 〔見込〕
↓
むかし小判の懐かしきかな 〔趣向〕
↓
小判拝める時も有けり 〔句作〕
【三工程】
(前句)住替て不破の関やの瓦葺
むかしの事の懐かしきかな 〔見込〕
↓
むかし小判の懐かしきかな 〔趣向〕
↓
小判拝める時も有けり 〔句作〕
前句「住替て」に懐旧の念を感じとり〔見込〕、どのような懐旧かと問いながら、小判が珍しかった時代に思いを馳せ〔趣向〕、「拝む」という行為に焦点を絞った(病人が小判を拝む風習も重ねつつ)〔句作〕。
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自註のラスト、病人が小判を拝む風習って唐突な感じがしますけど。
「住み替ってな、瓦葺にするんは衣食住のうちやけど、香や弓、お花やお能いうんは贅沢千万。そないして歳とって病になってな、漸う小判のありがたさが判るいうこっちゃ」
そういえば新編日本古典文学全集の注にも〈一般に黄金に延命の効果があると信じられていた〉と書かれてますね。
「そやろ。そやから千金丹・万金丹いうんやで」
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