浅沼璞
覚えての夜とは契る冠台 打越
歌名所見に翁よび出し 前句
住替て不破の関やの瓦葺 付句(通算29句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【句意】住む代が変わって不破の関屋も立派な瓦葺となった。
【付け・転じ】打越・前句=定家の恋の面影から実方の歌枕探訪に連想を広げた。前句・付句=阿古屋松の現況から不破の関の現況へと転じた。
【自註】古哥*にも不破の関屋の板びさしは軒端のあれて、月影のもりて侘しき宿のありさまを読み給へり。次第に栄えて、家作り都めきて*、女は琴、男は鼓の音の奥ぶかう聞えし。
*「人住まぬ不破の関屋の板廂荒れにし後はただ秋の風」(藤原良経・新古今集)
「秋風に不破の関屋の荒れまくも惜しからぬまで月ぞ洩り来る」(藤原信實・新後撰集)
*「昔、わら葺の所は、板びさしとなり、月もるといへば、不破の関屋も、今は、かはら葺に……都にかはる所なし。」(世間胸算用・巻五ノ一)
【意訳】古い歌でも、不破の関屋の板びさしが、年を経て荒れ果て、その軒端から月光がもれるという、侘しい宿の様子をお詠みになられた(歌人が幾人かいた)。それでも次第に復興し、家の作りも都風になり、女性は琴、男性は鼓の奥深い音を奏でるのが、家の奥の方から聞えてきた。
【三工程】
(前句)歌名所見に翁よび出し
代替る不破の関やのまた栄え 〔見込〕
↓
都めく不破の関やの家作り 〔趣向〕
↓
住替て不破の関やの瓦葺 〔句作〕
前句「歌名所」を不破の関とみて〔見込〕、現在はどのような有様かと問いながら、都風の家の作りに思いを定め〔趣向〕、瓦葺という題材に焦点を絞った〔句作〕。
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前回は歌人つながり、今回は歌枕つながりで微妙にズレてますが、前句のウタマクラ5音を、おなじ5音のウタメイショと言い換えてるのはどうしてですか。
「なんやろな、……そんなん忘れたがな」
そういえば編集の若之氏のメールに〈「歌枕」だと打越の「寝㒵」にさわるからなのでしょうね〉とありましたが……。
「成程やな……流石やな。そーしとこか」
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