2024年4月3日水曜日

西鶴ざんまい #58 浅沼璞


西鶴ざんまい #58
 
浅沼璞
 
 
 末摘花をうばふ無理酒   打越
和七賢仲間あそびの豊也
   前句
 銅樋の軒わらひ捨て
    付句(通算40句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
 
【付句】二ノ折、裏四句目。雑。
銅樋(あかがねどひ)=竹や槙の樋より高価で、富裕層の住居で使われた。

【句意】ぜいたくな銅樋(を設える上層階級)を一笑に付して。

【付け・転じ】打越・前句=「無理酒」から「無理」に賢人を真似た和製七賢への付け。前句・付句=和賢人の目線(無常観)から上層階級への冷笑へと転じた。

【自註】世を隙(ひま)になしたる親仁ども、毎日の楽(らく)遊び、きのふは通天*の紅葉に気を移し、けふはふな岡山*に人のかぎりを思ひ定め、京中の白壁作り、入日にうつるを詠めて、「あれあれあの栄花(えいぐわ)も、人間わづか五十年のたのしみ、死にては何になるやらしれもせぬ。其の身もかはゆや、商売に明け暮れ」
*通天(つうてん)=京の通天橋は紅葉の名所。 *ふな岡山=京の火葬場。

【意訳】世間から引退した老人たち、毎日気ままに遊び、昨日は通天橋の紅葉に気を紛らわせ、今日は舟岡山に人の命の限りを悟り、京都中の贅沢な白壁作り、落陽に映ずるをながめて、「あれあれあのような繁栄も、人間わづか五十年の命のたのしみ、死後は何のためになるやも知れぬ。その身が可哀そうなことだ、商売に明け暮れするばかりとは」

【三工程】
(前句)和七賢仲間あそびの豊也

  栄花もわづか五十年なり〔見込〕
    ↓
  わらひ捨てたる白壁作り〔趣向〕
    ↓
  銅樋の軒わらひ捨て  〔句作〕

和製賢人の目線(無常観)に照準を合わせ〔見込〕、人の世にはどんな無駄があるかと問いながら、富裕層の住まいに目を向け〔趣向〕、とりわけ高価な銅樋をクローズアップした〔句作〕。




銅の樋は高価だったかもしれませんが、そのぶん排水性・耐久性に優れ、結局は経済的、と定本全集の註にありますけど。
 
「また細かいこと言いよるな。長持ちする言うたかて、四十でこさえたら、亡うなるまでの十年しか用を足さへんやないか」
 
残せば子孫のためになる、って『日本永代蔵』にあったような。
 
……。もう忘れたがな。

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