おんつぼ38
Leonard Cohen
西原天気
おんつ ぼ=音楽のツボ
レナード・コーエン(1934 - )はカナダの詩人、小説家、シンガーソングライター(≫wikipedia)。日本では過去に小説『嘆きの壁』が翻訳出版されているが現在は絶版。もっぱら音楽キャリアで知られる人です。シンガーソングライターというくらいですから、歌詞が重要、アルバムのほとんどは基本アコースティックな音で特に初期はフォークソング風味の録音が多い。そのなかで私の愛聴盤は「Death of a Ladies' Man」(1977年)。「ある女たらしの死」という凄い邦題がついています。
このアルバム、ほかとはまったく違う音に仕上がっています。理由は明白。フィル・スペクター(≫wikipedia)のプロデュースとアレンジ。そのせいで、こうなってしまう。まずは1曲。「ヨードチンキ」という曲。
前奏のドラムのミョーチキリンな処理を聞いて、「あ、これね」とフィル・スペクター的処理をに気づく人もいらっしゃるでしょう。ジョン・レノンのカヴァーソロアルバム「ロックンロール」(1975年)などで、そっくりの音質が聞けたように覚えています。
それにしても、恋の傷とヨードチンキ。ぐっと来る曲です。
もう1曲。True Love Leaves No Traces。
なんの跡も残さないのが、ほんとの恋。さっきヨードチンキで言っていたことと違うような気もしますが、これもぐっと来るじゃないですか。
ところで、この「Death of a Ladies' Man」というアルバム、レナード・コーエンのデモテープ(歌だけ吹き込んであったのでしょう)をフィル・スペクターが勝手に仕上げてしまったものらしく、レナード・コーエンとしてはきわめて不本意なアルバムだったらしい。それが愛聴盤というのは、御本人には申し訳ないような気もしますが、とある「才能」なり「情報」なりを「素材」として扱い編集してしまうという作り方も、大いにアリ、予想外のおもしろさを生み出したりすると思うのですが、どうなのでしょう。
なお、フィルスペクターはかなりの変人のようで、いまは刑務所で服役中とか。詳しくはウィキをご覧ください。
2 件のコメント:
随分前なので、どこのホテルのバーか忘れたが(ミネアポリスだったか)、レナード・コーエンのClosing Timeをラストにかける渡りバーテンが居て、バーの口開けにかける曲は、トム・ウェイツのInvitation to the Bluesがいいとか、酔っ払っていろいろ話したことがある。口開けの曲はどういうお客が来るかわかれば、いろいろと選ぶことが出来るが、例えば久方ぶりの客であればジューン・クリスティのIt's been a long,long timeとか、しかし、クロージングになると、なるほど、コーエンのこの曲はカントリー・ウェスタンぽい味があってアメリカ的にはほどほどに賑やかで面白いこだわりだと思った。わたくしだったら、Dance me to the end of loveだろうか。Take this Waltzもコーエンはよくエンディングに歌っていたように思う。
コーエンを取り上げられて、そういう懐かしい記憶を呼び起こされたが、いや、わたくしが知っているコーエンの声とは全く違うので驚いた。トム・ウェイツの声が初期と今では別人のように違うのと似ている。確かに、コーエンのI'm your manやThe Futureの、これ以上いやらしい声はないだろうという強烈な低音を聞けば、これはジョン・レノンだろうかと間違えるほど(笑)。
多分、この「おんつぼ」を読んで、コーエンのベストCDを買って来たら、あまりの違いに卒倒するでしょう。わたくしも家でかけたら、カミサンが昼間からいやらしい歌かけないでよとすっ飛んで来ましたから。
Closing Time という曲は知りませんでした。The Future (1992)というアルバム収録ですね。私はI'm Your Man(1988)までしか聞いてませんわ。
ミネアポリスのバーで? なんとレナードでコーエンな状況でしょう!
レナード・コーエンを取り上げたわりには、唯一、この「Death of a Ladies' Man」というアルバムだけを愛している自分に気づきました。
余談ですが、2年半前に死んだ山本勝之にこんな句があるのを思い出しました。
いずれ何処ぞの灰 I'm your man
まさしく「ある女たらしの死」でした。
あ、それと、極端なエコー、オーバーダブ(たくさんの重ね録り)という点(特に前者)で、ジョン・レノンのロックンロールというアルバムはよく似た音です。
コメントを投稿