2019年11月11日月曜日
●月曜日の一句〔長岡悦子〕相子智恵
相子智恵
凩やぽんと明るく伊勢うどん 長岡悦子
句集『喝采の膝』(金雀枝舎 2019.9)所載
冷たく乾いた凩とうどんの取り合わせと、〈ぽんと明るく〉の佇まいがかわいらしくて一読で気に入った句。しかしながら、実は伊勢うどんを見たことも食べたこともなくて(蕎麦圏育ちなもので……)想像もつかなかったので調べてみた。
写真を見ると、太く柔らかい(らしい)麺と少しの青ネギだけがシンプルに丼の中にこんもりと盛られていた。たまり醤油を使っているという真っ黒なつゆはとても少なくて、丼の端の方にほんの少し見えるだけだ。けれどもその端っこの黒さが麺のつるんとした白さを際立たせていて、暗闇を照らす裸電球のように、麺の明るさが増している気がする。うん、まさに〈ぽんと明るく〉の風情である。
寒い凩の中をやってきて、立ち食いうどん屋で「ぽん」と伊勢うどんが出てきたら、それだけで気持ちが明るくなるし温まりそうだ。〈ぽん〉と〈うどん〉のリズムも楽しい。
掲句は、私のように伊勢うどんを知らなくても妙に心に残る。「凩」と「うどん」だけでできていて、「凩の中のうどん屋」のように文脈は想像できるのだけれど、それでいて文脈が決して前に出てこない。素材だけを即物的に並べた景がもつ、説明のいらない乾いた面白さがある。
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1 件のコメント:
相子智恵さま。長岡悦子さんの一句を鑑賞していただきありがとうございます。
この度、取りあげていただいた長岡悦子さんの一句ですが、
西村麒麟さんの「凩やうどんがぽんと明るくて」が先行句ではないかというご指摘をいただきました。
西村さんの句は、2013年刊の『鶉』に掲載。
長岡さんの句は、2016年12月頃に作ったものです。
結果的に似てしまいましたが、西村麒麟さんの句が間違いなく先行句です。
その件、謹んでご報告させていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
金雀枝舎
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