樋口由紀子
なめくじに眼がない だから私は生れ中村冨二 (なかむら・とみじ) 1912~1980
現代川柳は中村冨二から始まったと私は思っている。なめくじに眼がないことと私が生まれたことは本来何の関係もなく、別次元のことである。なめくじは触覚の先端に眼があるらしく、懸命に触覚を伸ばしている姿を見かける。その様子と自分の出生を結び付けている。なぜ自分がこの世に生まれてきたのか、なぜ存在しているのかとは誰もが一度は思う。生きて在ることの切なさや空しさを感傷に陥ることなく、アイロニカルに表現している。『中村冨二集』(八幡船社刊 1974年)所収。
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