相子智恵
紫陽花のあさぎのまゝの月夜かな 鈴木花蓑
伊藤敬子著『鈴木花蓑の百句』(2020.2 ふらんす堂)所載
日が暮れていき、夜になった。紫陽花の浅黄色は暗闇にまぎれてしまうことなく、月の光を浴びて、その色のままに見えている。紫陽花が星雲のようにも思われてきて、一句全体がひとつの宇宙のようにも感じられる美しい句だ。
本書によれば、大正13年9月号の「ホトトギス」に掲載された句だという。〈経時的に考えてみると花蓑は四S(水原秋桜子、高野素十、山口誓子、阿波野青畝)出現の為に母胎の役割をした。(中略)俳壇において花蓑が居なかったならば、「ホトトギス」の純粋なる誌的遺産は、日本の文学史上に残し得なかったのではないか。〉と解説で伊藤氏は書く。資料の少ない鈴木花蓑の句をこうしてアンソロジーで読めて、その句業を知ることができるのは嬉しいことである。
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