樋口由紀子
換気扇つければ走りそうな家
今川乱魚 (いまがわ・らんぎょ) 1935~2014
台所の窓や壁の一部を壊して設置し、調理中に出る煙などを外に排出するための換気扇があらわれたのはいつ頃だっただろうか。最初は台所には不釣り合いな闖入者であった。この句は60歳以上の人でないと実感できないかもしれない。
「つければ」は換気扇を取り付けるの「付ける」ではなく、作動するの「点ける」だろう。「点ける」とモーターでプロペラがすごいスピードで回り始め、轟音で一瞬何が起ったかわからないくらいで、家全体が飛び出していきそうだった。次々に登場した家電製品にあたふたとしていたことをなつかしく思い出す。便利になったが、戸惑いもあり、いつまでもなじめない、そんな昭和の時代を彷彿させる。掲句はなんといっても「換気扇」の役者ぶりが光っている。
0 件のコメント:
コメントを投稿