相子智恵
ほほざしの肺まざりあうから来るな 田島健一
季刊同人誌「オルガン」21号 俳句作品「来るな」(2020.5.5 発行人 鴇田智哉)所載
〈ほほざし〉は「頬刺」で、季語「目刺」の傍題。藁や竹串をイワシの目に刺して干せば目刺、口から鰓に刺したものが頬刺である。スーパーで見かけるものは頬刺が多い気がする。
頬刺にされ、他者と自分の鰓が密着したイワシたちが、互いに〈肺〉が〈まざりあうから来るな〉と恐怖に駆られて怒鳴りあっている。イワシたちは離れることもできずに、苦しそうに大きく口を開けた状態で干されている。
掲句は、新型コロナウィルスの感染拡大の恐怖から来る、社会のあれこれが想起させられるように書かれた句である。イワシのことを描きながら、今現在の社会をあぶり出した秀句だと思う。
密閉・密集・密接の「三密」、それでも乗らなければ生きていけない理不尽さに、叫び出したい気持ちを抑えながら、みんな無言で乗っている満員電車。いわゆる「自粛警察」に見られるヒステリックな社会。コロナ禍で見えてきたこうした社会の軋みのあれこれが、口と鰓を無理やりこじ開けられ、密着させられ、恐怖に叫ぶイワシたちの姿から感じられてくるのである。
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