相子智恵
花の蜜のあんた何時まで吸ふストロー 宮﨑莉々香
「できあいの郊外」(ウラハイ 2020.4.28号【名前はないけど、いる生き物】)所載
〈花の蜜の〉〈ストロー〉で、ストローのような蝶の口が想像されるように書かれている。そこに唐突な〈あんた何時まで吸ふ〉が妙に可笑しい。ここで急に、喫茶店でずっと飲み物のストローを啜っている子どもや若輩の者に向かって、「あんたいつまでストロー吸ってんのよ」とあきれ顔で指摘する人の姿がカットインされてくるのだ。〈花の蜜の〉で切れずにつながりながら、場面がゆがむように変わり、最後の〈ストロー〉で再びごちゃっと蝶と人とが統合されていく感じが、妙な遠近感と手触りで面白い。〈ストロー〉というキーワードが不思議に働いている。
そういえば私にとって、それまで何とも思ったことのなかったストローが喫緊の課題となったのは、子育てをしている過程でのことだった。哺乳瓶の次に使わせるのがストローだったからだ。ストローが使えないことは水分が摂れないことを意味するので、覚えさせるのに必死だった。哺乳瓶という直感的な分かりやすさから、一段違った形と概念への移行。まずは「これを吸えば液体が出てくる」という原理を知らせるところから始めなければならなかった。そういう意味では、ストローはスプーンと共に、一番最初に覚えさせた「文明」だったと思う。
横道にそれてしまい、鑑賞ともいえぬ文章になってしまったが、そんな個人的なことも思い出させる不思議に可笑しい手触りの一句である。
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