相子智恵
永き日といふ長生きのやうなもの 仁平 勝
句集『デルボーの人』(2023.3 ふらんす堂)所収
本句集は第一句目から
づかづかと夏の踊り子号に乗る
という、〈づかづかと来て踊子にささやける 素十〉のパロディから始まる。そんなエンターテイナーである作者のことだから、掲句は「ながきひ」と「ながいき」の音の相似、「永」と「長」の漢字を見つけたところにまずは膝を打つべきであろう。だが、この句はそんな鮮やかな機知の手柄以上に、深い滋味があるように思った。
〈永き日〉は、春分を過ぎて昼間が長くなってきた感慨、寒い冬をようやく越してきた春の喜びと長閑さを味わう季語。それが悲喜こもごもを経験してきた後の、長く穏やかな余生と、まことによく通じている。
また、掲句は「長生きといふ永き日のやうなもの」と改悪してみれば一目瞭然だが、長生きの人間が主体なのではなく、あくまで主体は日永であるということも上等なのだ。さらに〈のやうなもの〉の、だらんとした述べ方も相まって、緊張感がどこにもなくて、自然に笑みがこぼれてしまう。
虚子の〈去年今年貫く棒の如きもの〉のような、真理と詩と季感とが混然一体となった面白さのある一句である。
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