相子智恵
雀の帷子ぽくぽくと土乾く 山西雅子
句集『雨滴』(2023.1 角川文化振興財団)所収
雀の帷子(スズメノカタビラ)はイネ科の越年草。“雑草の中の雑草”で、道端や空地、田畑のまわりなど、実によく見かける。雀が着る単衣の着物にたとえた名前で、春に数ミリの麦のような小さい穂をしゃらしゃらとたくさんつける。
〈ぽくぽくと土乾く〉の「ぽくぽく」が他の季節ではない、春らしさがあるなあ、と思う。土の表面は乾いているのだけれど、内側は潤っている豊かな土を感じさせるのだ。凹凸があって、土の中からこれから萌え出るものも感じることができる。それは人が育てた植物でも、雑草であってもどちらも豊かなのだ。本句集はこのようにささやかなものを見逃さない。
たわたわと松高うあり野分晴
寄貝の渚に年を惜しみけり
鶏頭や下洗ひする泥のもの
夏帽をとり前髪をかきまはし
静かながら滋味深い句が多くて、読後にじんわりと心が澄んでくる句集だ。時々、
海鼠に毛あらばそよいで寂しいか
どんぐりの裸の尻の氷りたる
水筒の中にゆふやけ子は育つ
こんな泣きそうなほどに詩的な不思議が、そっと隠れていたりもする。
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