樋口由紀子
河童月へ肢より長い手で踊り
川上三太郎 (かわかみ・さんたろう) 1891~1968
「河童」はなにものなのか、その実体は不明の、架空の動物である。三太郎は河童を存在するものとしてまず立ち現わせ、加えて「肢より長い手で踊り」と設定した。その発想に驚く。それによって、呪詛的で生々しくてリアルで、それでいて謎で、想像を超えた臨場感をもたらし、その様子が目を瞑れば見えてきそうな気をさせる。
「月」は異界への扉なのかもしれない。「肢より長い手」で踊る河童は魂の気高さがあり、自由で妖艶でこの上なく美しいのだろう。
河童起ちあがると青い雫する
河童群月斉唱、だがーだがしづかである
「河童満月七句」と題された中の一句で、昭和十年前後の作と言われている。
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