相子智恵
サンドイッチしづかに倒れ雲の峰 金子 敦
現代俳句文庫88『金子敦句集』(2023.4 ふらんす堂)所収
そういえば、サンドイッチは音もなくゆっくり倒れる。それも、ひとかたまりで倒れるのではなくて、たいてい中身の部分でばらけてしまう。レタスのところで分かれて倒れることが多い気がするが、きっと密着しにくいのだろう。
取り合わせは〈雲の峰〉だから、外で食べていると想像される。ピクニックだろうか。食べきれなかった少し乾いたサンドイッチが静かに倒れ、どっしりと動かないように見える雲の峰もまた、静かに形を変えていく。そんな午後である。
外で食べるサンドイッチのある風景というのは、幸せな一場面のような気がするのに、この静寂には、どこか寂しさがある。サンドイッチの乾いてゆく午後の光は、過ぎ去った夏を思い出す時の、うっすらとした寂しさにつながっていく。
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