相子智恵
押入れが中から閉まる青嵐 千葉皓史
句集『家族』(2023.4 ふらんす堂)所収
押入れは収納のための空間だから、普通、内側から閉まることはない。それゆえ、子どもの遊びなのだろうということがわかる。懐かしさのある句だ。
取り合わせの青嵐がいい。青葉が力強い風に吹かれる音が響いてきて、ざわざわ、わくわくとした、子どもの冒険心まで感じられてくる。そして、押入れの中という暗い内側と、緑ゆたかな外側とがつながりあって、不思議なスケール感が生まれている。この季語によって、句が一気に広がってゆく。
他に、同じ初夏の句で、〈投げ入れて壺の中まで花卯木〉という句もある。花卯木のうわっと咲く白さが、生けられた壺の中の暗い空間にも、びっしりと咲きわたっている。ここでも暗い内側と明るい外側とがつながりあう。〈投げ入れて〉の無造作で動的な言葉によって、壺の中が今まさに明るくなったように感じられ、生け花なのに生命力があるのだ。
春潮を汲んでふるふるバケツかな
濤音のどすんとありし雛かな
末枯や蜂のもつるる鉋屑
蜻蛉の搏つたるわれの暮れかかり
このように、どの句も丁寧に書かれていながら、小さくまとまってはいない。一句一句が遥かなるもの、大いなるものとつながっている。こうした句を読んでいくと、五七五という小さな詩が、とんでもなく大きな器であることを確信するのである。
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