相子智恵
続けては負けてやらざる草相撲 吉田哲二
句集『髪刈る椅子』(2023.8 ふらんす堂)所収
〈続けては負けてやらざる〉だから、作中主体自身が相撲をしていることが分かる。一度は負けてあげるというコントロールというか、演技ができる相手だから、自分よりもずいぶんと格下の相手だ。パッと想像されてくるのは、親子の相撲遊びである。
小さい子どもとの勝負事の遊びは、加減がなかなか難しい。本気で向かって負かせ続けてしまえば拗ねて泣くだろうし、子どもがずっと勝ち続けても、それはそれで面白くないのである。この句は絶妙なバランスで、最初に負けてあげて、次は自分が勝つ。
しかし、〈負けてやらざる〉には、徐々に本気になっていく大人の意地が見えてくるところが面白い。子どものためのサービスとしての遊びではなく、親子の両方が本気でこの場を楽しんでいるのだ。だんだんとヒートアップしていく、そのスイッチが切り替わる面白さがある。
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