相子智恵
月に問へ生きて真澄の月に問へ 黒田杏子
句集『八月』(2023.8 角川文化振興財団)所収
三月に急逝した黒田の最終句集『八月』は、髙田正子ら「藍生」の連衆7名からなる刊行委員会によって、前句集『日光月光』以降の10年間の句が纏められた遺句集だ。
黒田は2015年に脳梗塞で倒れたが回復。掲句にはその実感もあるのだろう。言われてみれば何かを「問う」ことは、生きているうちにしかできない。これからも生きて、よく澄んだ月に問うべし、と自分に言い聞かせているのだ。この月への問いは、真澄の鏡(曇りのない鏡)のように自分に跳ね返ってくるのだろう。
掲出句の前の句は〈月光無盡蔵瞑りて禱るべく〉。月は見るものではなく、月には目をつむって祈るべし、というのも黒田の季語観をよく表しているように思う。〈月に問へ〉も然り。以前、こちらにも書いたが、季語を対象として詠むというよりも、抱いて取り込み、季語と人生が一体化していくのだ。その俳句人生がよく伝わってくる最終句集であった。
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