恋種や麦も朱雀の野は見よし 打越
末摘花をうばふ無理酒 前句
和七賢仲間あそびの豊也 付句(通算39句目)
末摘花をうばふ無理酒 前句
和七賢仲間あそびの豊也 付句(通算39句目)
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)
【付句】二ノ折、裏三句目。雑。和七賢(わしちげん)=日本の七賢。「しちげん」と濁るのは『下学集』(一四四四年)による。中公版『定本西鶴全集8』「西鶴俗つれづれ」頭注に〈七賢は世を竹林にのがれて自適した支那晉代の七賢人。當時大阪に七賢人をまねた連中がゐたことは西鶴の「獨吟百韻自註」にもその記載がある〉と記されている。また遺稿集『西鶴名残の友』にも「和七賢の遊興」なる短編がある。
【句意】和製の七賢人による仲間内の(無理な)遊びは(一見)豊かなものである。
【付け・転じ】打越・前句=朱雀野を帰る遊客のクローズアップによる付け。前句・付句=「無理酒」から「無理」に賢人を真似た和製七賢人へと転じた。
【自註】唐土(もろこし)の*かたい親仁ども、竹林に酒を楽しみ、世を外(ほか)になして暮せしを、其心ざしには思ひもよらぬ年寄友達、無理に形を作りなし、世間の人むつかしがるやうにこしらへ、同じ心の友の寄り合うては酒家に詩をうたふ。脇から見た所はゆたかなりしが、其身(そのみ)に子細者(しさいもの)作りけるは、本心は取りうしなひける。
*かたい親仁(おやぢ)=表8句目自註に既出。そこでは「厳格な父親」の意。
【意訳】中国の厳格な親爺たちが竹林で酒を楽しみ、世の事を気にかけず暮していたのを、その離俗の志には思いも及ばぬ(日本の)年寄仲間、無理に世捨て人のなりを作り、世間の人の憚るように演じ、同じ志向の友が寄り合っては酒楼で詩を吟ずる。傍目には悠然と見えるけれど、わざと世捨て人を気取っているのだから、ご本家の本心は失っている。
【三工程】
(前句)末摘花をうばふ無理酒
友寄りて無理に詩うたふ豊かさよ 〔見込〕
↓
和七賢酒家に詩うたふ豊かさよ 〔趣向〕
↓
和七賢仲間あそびの豊也 〔句作〕
「酒→作る詩」(類船集)の縁語から無理酒を飲んで詩を吟じていると取成し〔見込〕、どんな連中が詩を吟じあっているのかと問いながら、和七賢を連想し〔趣向〕、「作る詩」の抜けで句を仕立てた〔句作〕。
前回、打越・前句について、麦と末摘花(紅花)で同季の付け、と解説しましたが、編集の若之氏より、〈朱雀と紅花は色のつながりもあるのでしょうか〉との指摘がありましたが。
「そやな、かしこいな、朱と紅やからな」
同系色の色立(いろだて)ですね。
「色立? なんや聞かん言葉やけど、又のちの世の後付けやないか」
あ、そうでした。すみません。
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和七賢仲間あそびの豊也 〔句作〕
「酒→作る詩」(類船集)の縁語から無理酒を飲んで詩を吟じていると取成し〔見込〕、どんな連中が詩を吟じあっているのかと問いながら、和七賢を連想し〔趣向〕、「作る詩」の抜けで句を仕立てた〔句作〕。
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前回、打越・前句について、麦と末摘花(紅花)で同季の付け、と解説しましたが、編集の若之氏より、〈朱雀と紅花は色のつながりもあるのでしょうか〉との指摘がありましたが。
「そやな、かしこいな、朱と紅やからな」
同系色の色立(いろだて)ですね。
「色立? なんや聞かん言葉やけど、又のちの世の後付けやないか」
あ、そうでした。すみません。
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