相子智恵
ぼうたんに昼を退(の)きゆく日影かな 岡田一実
句集『醒睡』(2024.5 青磁社)所収
「花の王」とされる大輪の牡丹の花。ややクシャっとした花弁の重なりは、遠目で見れば、幾重にも重なったフリルのように花の豪華さを印象づけ、近づいてみれば一枚一枚の花びらは、繊細な薄さをもっている。
そんな牡丹の花に、日の影ができている。〈昼を退きゆく日影〉というのは、昼が過ぎて夕方となった淡い日影、ということなのだろう。花の輪郭がうっすらと出る日影だ。
〈昼を退きゆく〉によって、逆にその前の時間、つまり昼真っ盛りの時間の、くっきりとした日影も想像させる。真昼の光に照らされた牡丹の花は豪華さを増し、その影も輪郭がくっきりして力強いことだろう。しかし、〈昼を退きゆく〉という今は、花も影も繊細さのほうが増してくるのである。
豪華さと繊細さが同居する牡丹の花に、昼と夕方という光の対比を重ね、時間と空間にふくらみと陰影をもたせた、味わい豊かな写生句である。
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