2024年7月12日金曜日

●金曜日の川柳〔野沢省悟〕樋口由紀子



樋口由紀子





五十過ぎて卵に顔が描けそうだ

野沢省悟(のざわ・しょうご)1953~

五十までは卵に顔が描けなかったわけではないだろう。描こうと思えばできたはずである。卵に顔を描く技術はそれほど必要とはしない。ただそういうことをやろうと思わなかった。無駄なこと、どうでもいいこと、そういうことはしてこなかった。それが何も躊躇もなくすんなりとできる。「五十過ぎて」というのが微妙で絶妙な年代設定である。顔も身体も心もだんだんまるくなる頃である。

作者は私と同年齢。五十過ぎより、たぶん、今はもっと丸くなってきただろう。私も七十を過ぎてますます身軽に気軽になった。環境の変化がそうさせる部分もあるが、どうでもいいことが増えて、こだわりが減り、いいかげんになって、人生はますます楽になる。『セレクション柳人 野沢省悟集』(2005年刊 邑書林)所収。

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