かけがえのなさ
福田若之
かけがえのなさ:他のものではないということ。
かけがえのなさは、ありふれたものだ。たとえば、ひとは誰しもかけがえのない存在だ。あたかも、誰もが同じようにかけがえのない存在であるかのようだ。
けれど、それぞれのひとに備わっているかけがえのなさは、そのどれもが、まったくありふれたものではない。
たとえば、要素A、B、Cからなる集合において、それぞれの要素がかけがえのないものである場合。
Aのかけがえのなさは、BならびにCではないということである。Bのかけがえのなさは、AならびにCではないということである。Cのかけがえのなさは、AならびにBではないということである。それぞれの要素のかけがえのなさは、他のどの要素のかけがえのなさとも異なっている。
これは、集合の要素がどれだけ増えても変わらない。あるもののかけがえのなさは、他のどんなもののかけがえのなさでもないということだ。
∴かけがえのなさはありふれているが、ありふれたかけがえのなさというものはない。
こう書くと、あたかもかけがえのないもの同士を比べることには意味などないかのように思われるかもしれない。けれど、そうではない。むしろ、比べることが肯定されるのは、かけがえのなさによってのことだ。もしAがBだったら、もはやAをBと比べることはできないだろう。あるものをそれ自体と比べることはできない。AがBではなく、BがAではないからこそ、両者を比べることが肯定される。
けれど、おそらく、比べることと優劣をつけることとは、また別のことだ。
2016/2/25
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