2016年3月25日金曜日

●金曜日の川柳〔内藤悟郎〕樋口由紀子



樋口由紀子






苺の赫さが妻の瞳にある

内藤悟郎 (ないとう・ごろう)

苺が美味しい。店頭に並べてあれば、その赤い色に魅かれてつい買ってしまう。妻と苺を食べていたのだろう。食べている苺と同じ色が妻の瞳にあることに気づいた。妻をいままでよく見ていなかったことに思いがいたったのだ。それは大切なものを見つけた瞬間でもある。どうってことない日常が、代わり映えがしない関係が動いた。

「赫」は赤を二つ並べた漢字。「あかあか」と赤の倍、艶のある色。単に思っただけなら「赤」だっただろうが、想像以上の新鮮な驚きであり、発見だったのだ。だから「赫」なのだろう。照れくさくて口にできないことも川柳は受け取ってくれる。

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