2016年3月28日月曜日

●月曜日の一句〔小川軽舟〕相子智恵



相子智恵






梅咲いてユニクロで買ふもの軽し  小川軽舟

「俳句」2016.4月号 特別作品50句「春の人」(2016.03 角川文化振興財団)より

俳句に店名を詠み込んだ例は、私はそれほど見たことがない。パッと思い出すのは攝津幸彦の〈幾千代も散るは美し明日は三越〉だろうか。

それよりも掲句を読んでまず思い出したのは、俵万智の〈大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋〉という短歌であった。この短歌の入った『サラダ記念日』は1987年刊行。東急ハンズという「何でもある」「ちょっと変わった面白いものを求める」ワクワク感と、〈大きければ〉に買い物のハレの気分が加わって、80年代の豊かさ、バブルの空気とカルチャーがよく表れた歌だ。

それに比べて掲句は、現代のファストファッションの代表格であるユニクロ。価格は安く機能性が高く、判で押したように同じ商品が並ぶが、それなりに流行も押さえている。商品の重量としてはもちろん軽いものばかりではないのだが〈軽し〉が見事にユニクロでの買い物の気分を言いえていると思った。それはハレの気分ではなく、ケの気分。日常着の代表であるこの店名には、もはや買い物にハレを求めなくなった(経済的にも求めにくくなった)現代の気分があるのだ。

〈梅咲いて〉には、それに不満を持つわけでもなく、見栄も張らない「それなりの喜び」が現れている。80年代の〈大きければいよいよ豊かなる気分〉と正反対の、そのささやかさがまた、現代である。

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