浅沼璞
役者笠秋の夕べに見つくして 第三 (打越)
着るものたゝむやどの舟待ち 四句目(前句)
埋れ木に取付く貝の名を尋ね 五句目(付句)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
役者笠秋の夕べに見つくして 第三 (打越)
着るものたゝむやどの舟待ち 四句目(前句)
埋れ木に取付く貝の名を尋ね 五句目(付句)
『独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)
いつもどおり打越まで取って返し、「三句目のはなれ」の吟味にかかります。
●
まず前句が付いたことにより、打越の眼差しは伊勢参りの田舎人の、物珍し気な眼差しに特定されました。この田舎人の眼差しは、ひとまず舟待ちの宿という空間に落ちつきます。
そして「着るものたゝむ」舟待ちさんの眼差しとして定着します。と、付句があらわれ、磯歩きくんの眼差しへと転じていきます。
これは前句の舟待ちの要因を「日和待ち」(波風がおさまるのを待つこと)に特定した結果です。
定期便を待つ舟待ちであれば、わざわざ磯歩きをするまでもないでしょう。前句の「舟待ち」をいったんニュートラルな状態にし、打越とは別の眼差しからシフトチェンジしているわけです。
●
けれど天候回復を待つ「日和(には)待ち」ということになれば、出航時刻は不明――その退屈しのぎに案内人付きの磯歩きが決行されたとしても不思議ではありません。
で第1形態・磯歩きくんの眼差しは、「木に取付く貝」をキャッチする第2形態・気にかけくんの眼差しに変容し、さらには貝の名を案内人に問う最終形態・お尋ねさんの眼差しへと転じられていくわけです。前回のメモを再掲しましょう。
日和待ちをせし夕暮の磯歩き 〔第1形態=磯歩きくん〕
↓
流れ木に取付く貝を気にかけて〔第2形態=気にかけくん〕
↓
埋れ木に取付く貝の名を尋ね 〔最終形態=お尋ねさん〕
「どや、元禄正風体の心行、飛ばし形態、見たってや」
日和待ちをせし夕暮の磯歩き 〔第1形態=磯歩きくん〕
↓
流れ木に取付く貝を気にかけて〔第2形態=気にかけくん〕
↓
埋れ木に取付く貝の名を尋ね 〔最終形態=お尋ねさん〕
「どや、元禄正風体の心行、飛ばし形態、見たってや」
●
仰せのとおり、「飛ばし形態かて、抜けかて、移りかて、さほど違わん」ってことかもしれません。
要は元禄正風体をどのアングルから捉えるかによってその呼称が変わった、というのが真相に近いのかもしれません。
●
とはいえ早計は禁物。慎重に六句目の下調べにはいります。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿