2021年6月11日金曜日

●金曜日の川柳〔湊圭伍〕樋口由紀子



樋口由紀子






助手席でカバンのなかを拭いている

湊圭伍 (みなと・けいご) 1973~

映画のワンシーンのようである。映画ならこのシーンの前後を観ていたら、その理由はある程度理解できる。しかし、映画ではなく川柳である。このワンフレーズだけでは何故拭いているのか不明である。書かれている意味以上のものが仕組まれているのだと思ってしまう。しかし、感情を喚起させるものは見事にシャットダウンされている。

だから、拭いている人の表情を思い浮かべながら、何かあったのかと想像するしかない。根拠や理由を表に出さないで、自分の存在感をたくみに示し、時代を生きる気分を表現している。すべては「そら耳」であり、別に何の意味もないのかもしれない。まんまと言葉の仕掛けにひっかかってしまったのだろう。『そら耳のつづきを』(2021年刊 書肆侃侃房)所収。

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