2022年12月21日水曜日

西鶴ざんまい #36 浅沼璞


西鶴ざんまい #36
 
浅沼璞
 
 
大晦日其暁に成にけり     前句(裏九句目)
 姫に四つ身の似よふ染衣
   付句
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(元禄五・1692年頃)

【付句】月の座だが、裏五句目に引きあげられているので、ここは雑。
姫(ひめ)=女の子。四つ身(よつみ)=子供着。自註にあるように小児の着物は「一つ身」なので、その四倍の布で裁つ。似よふ=現在も残る「似合ふ」の訛り。染衣(そめぎぬ)=染めた着物。自註によると正月小袖。


【句意】娘にも四つ身の染め色の晴れ着が似合うようになったなぁ。

【付け・転じ】掛払いをすませる「大晦日」を、人々が数え年を重ねる、その直前の晩と取り成した。

【自註】人の親の子に迷はざるはなし。それぞれそれ程の正月小袖、色を好みてことしまでは壱つ身なりしが、はや四つ身仕立(したて)にして、大年(おほどし)の夜きせそめて、春を見る心の嬉しくはやり、我と帯をせし事、年が薬ぞかし。
参考1〈人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな〉(『後撰集』十五・雑一)。参考2〈帯も手づから前に結びて、うしろにまはし〉(『好色一代男』巻一ノ一)。

【意訳】人の親として子に翻弄されない者はいない。それぞれ分相応の正月小袖を好みの色に染め、今年までは一つ身の小児用であったが、早くも四つ身の子供着を仕立て、大晦日の夜に初の試着。娘は新春を控えて興奮状態で、みずから帯をするほど。「年が薬」という諺どおり、年月が成長を促してくれる。

【三工程】
大晦日其暁に成にけり(前句)

みなみな齢重ねゆくなり  〔見込〕
  ↓
育ちゆく子は親の楽しみ  〔趣向〕
  ↓
姫に四つ身の似よふ染衣  〔句作〕

前句を、みんなが数え年を重ねる直前の大晦日とみて〔見込〕、〈どのような楽しみがあるのか〉と問いかけながら、愛娘の成長と思い定め〔趣向〕、「四つ身の晴れ着が似合うほど育った」という題材・表現を選んだ〔句作〕。

【先行研究】「定本西鶴全集」「新編日本古典文学全集」いずれも雑の句としている。
 

前句が「大晦日」で冬なら、ここも冬になるんじゃないですか。
 
「そない言うたかて季語がないやろ」
 
また確信犯というわけですか。
 
「冬は一句で捨ててもええし、花の座までちと間もあるし……」
 
なるほど、句意よりもエクリチュールで季をコントロールしてるんですね。
 
「ヱンドロール? まだまだ揚句は先やで」
 

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