相子智恵
淡交をあの世この世に年暮るゝ 恩田侑布子
句集『はだかむし』(2022.11 角川書店)所収
各メディアでは今年のニュースを総集編で振り返る時期になってきて、せわしない年末に雪崩れ込みつつある。そんな今年最後の更新に、静かな年の暮の句を。
掲句、あっさりとした交際を、あの世の人とも、この世の人とも交わしている……そんな年の暮であるという。〈淡交〉の語は、荘子の「君子之交淡若水」による。君子の友との交わりは、水のように淡く、しかし友情はいつまでも変わることはない、といった意味だ。
ドロドロした煩わしさのない、一人ひとりの友との淡白なつながりは、細い絹糸のように静かな微光を放っている。読むと心が穏やかになるような句だ。
いいなあと思うのは、〈この世〉よりも先に〈あの世〉が出てくることである。〈あの世〉の人とは、かつてうっすらと交わった故人でもあるだろうし、また、会ったこともない歴史上の人物でもあるのかもしれない。書物の中で出あえば、それも自分にとっては淡交の友のひとりになろう。あるいは淡交の相手は人間ですら、なくてもいい。
そんな淡い交わりの微かな糸がキラキラと、自分の中に満ちてきて、今年も暮れていくのである。
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