2023年2月22日水曜日

西鶴ざんまい #39 浅沼璞


西鶴ざんまい #39
 
浅沼璞
 
 
茶を運ぶ人形の車はたらきて   打越(裏十一句目)
 御座敷鞠しばし色なき     前句(裏十二句目)
春の花皆*春の風春の雨      付句
『西鶴独吟百韻自註絵巻』(1692年頃)

 
【付句】花の定座(春)。
*皆=「皆になす(なる)」の略。全部なくす(なくなる)。[新編日本古典文学全集より] 

【句意】春の花も散り、皆なくなってしまった。春の風や春の雨のせいで。

【付け・転じ】打越・前句を結果としてとらえ、その原因に思いを馳せた付け。 つまり室内遊戯の原因を風雨に求めた逆付け。
前句(原因)/付句(結果)とは逆に前句(結果)/付句(原因)となるので逆付けという。ウラハイ = 裏「週刊俳句」: 西鶴ざんまい #21 浅沼璞 (hw02.blogspot.com)

【自註】「それ花につらきは春の風*」と古人も言葉に惜しみしに、ましてや梢の盛りにふりつゞく雨のかなしく、はるかなる吉野・金竜寺(こんりうじ*)の山桜も思ひやられ、入相の比(ころ)、鞠に気を移しけるに、中々/\かはき砂の用意、鋸屑(おがくづ)などにて垣の中はおよびなく*、座敷鞠にぞ心をなしける。
*「 」内は謡曲取り。
*一般的には能因「山里の春の夕ぐれ来て見れば入相の鐘に花ぞ散りける」のトポスとされていた。
*乾き砂や鋸屑で鞠場(まりば)の泥濘を直すエピソードが『徒然草』177段にある。

【意訳】「それ花につらきは春の風」と古人も言葉にして惜しんでいるけれど、ましてや梢の花の盛りに、雨の降り続くのは一層惜しくもあるが、遥かな吉野や金龍寺の山桜も思いやられ、入相の鐘の鳴るころ、外で蹴鞠をしたい気持ちになったものの、とうてい用意した乾き砂や鋸屑では鞠場はよくならず、座敷鞠に心を移した。

【三工程】
御座敷鞠しばし色なき(前句)

日和なほ定まらぬまゝ昨日今日 〔見込〕
  ↓
乾き砂さへ役立たぬ春の雨   〔趣向〕
  ↓
春の花皆春の風春の雨     〔句作〕

打越・前句の室内遊戯を悪天候の結果とみて〔見込〕、〈どのような悪天候なのか〉と問いかけながら、降りつづく春の雨と思い定め〔趣向〕、花を散らす風雨という題材を「春の」のリフレインによって表現した〔句作〕。

 
また逆付けが出ましたね。
 
「ワシの十八番やけど、草子でも似たことしとるで」
 
あーそういえば『世間胸算用』だったか、登場人物が予想で話してた内容が実は結果だった、みたいな話、ありましたよね。
 
「そや、話の仕方と、俳諧の付合は似たとこあるんやで、ほかにもな――」
 
――はい、どんな?
 
「今日は言わんでおくは」
 
え、そんな。
 

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