西原天気
※相子智恵さんオヤスミにつき代打。
※相子智恵さんオヤスミにつき代打。
蝌蚪の尾を震はせてをり蝌蚪の脳 太田うさぎ
脱力を誘うほどの「あたりまえ」性が一周廻ってユニークに俳句的であるところ、例えば《噴水のがんばつてゐる機械かな・岸本尚毅》などと近いかもしれない(違うかもしれない)。
この世における多くの生き物においては、おおむねのところ、脳が肉体の末端まで司っているらしく、ほら、私も足の指を動かそうと脳が思えば、ちょっと不器用にではあるが、床に落とした鉛筆をつかめるくらいには動く。けれども、同じ端と端でも、蝌蚪(おたまじゃくし)のこの姿は格別に滋味深い。
ひとつには、頭部と尾のなだらかなひとつながりというあの形状の魅力。ひとつには、幼生であることのキュートさ・玄妙さ。つまり、脳も尾も、早くもこんなに〈がんばつてゐる〉のだ。
素敵な一句が私たちにもたらすもののひとつに、それ読んで以降、事物の見方が変わる、ということだと思う。この春から、蝌蚪を見つめては、脳と尾のひとつながりの連絡を、電気信号に感電するごとくビリビリと感じざるを得ない(ちょっと大袈裟)。
掲句は『豆の木』第6号(2002年2月)より。
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