樋口由紀子
転びバテレンが消火栓から覗く
井上一筒 (いのうえ・いいとん) 1939~
「転びバテレン」とは江戸初期にキリスト教徒が拷問や迫害にあって、棄教改宗したキリシタンである。そんな彼らが覗いている。それも消火栓からである。「消火栓」は火事になったとき素早く対応できるように建物の隅に設置されている。「転びバテレン」という、意味性をたっぷり吸った言葉に「覗く」という仕草を重ねる。過剰な情報が詰めこまれているが、不思議な余白がある。
その様子はちょっと滑稽で、どこか物哀しく、胸を衝かれる。彼らにこの世はどのように見えるのだろうか。どんな思いで覗いているのだろうか。現実にはありえない光景だが、「転びバテレン」も「消火栓」もメタファーとして使われているのではないだろう。安易にわからせてくれない。感じることしかできない。「第6回水の都まつえ川柳大会」(2023年刊)収録。
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