2016年5月20日金曜日
●金曜日の川柳〔井出節〕樋口由紀子
樋口由紀子
時々は埋めた男を掘り出して
井出節 (いで・せつ) 1944~2005
「埋めた男」とは殺して埋めた男という、物騒な話ではないだろう。自分の分身だろう。自分でも手に負えなくなって葬ったのだ。しかし、平穏に暮らしていくことはできるが、分身の手を借りなければ片づかないものを抱えている。何よりも分身がいないと退屈なのだ。そのために時々分身を「掘り出して」きて、息をつく。自分で埋めて、自分で掘り出す身勝手さ。なんともやっかいな性だ。それをまるで他人事のように、飄々と書いている。
〈一つめの桃は見送ることにする〉〈横顔が複雑すぎる写楽の絵〉〈いかがせむいかがせむとて舞いにけり〉〈哄笑うために赤い鳥居によじ上る〉〈少し長い右手で月を摑まんと〉〈憂きことも無けれど重き菜切りかな〉〈赤いポストを鬼の首と思うとき〉〈五十半ばの河でひたすら桃を待つ〉〈躓いた姿のままで柩に入る〉。井出の柔和でつかみどころのない笑顔を思い出す。そういえば飄々とした人だった。『井出節川柳作品集』(2002年 川柳黎明舎刊)所収。
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