樋口由紀子
掘り過ぎた穴からピエロ首を出す
細川神楽男
土を掘っていくとときたま蚯蚓が顔を出すことがある。しかし、ピエロの首は出てこない。もちろん「ピエロの首」は何かの比喩だろうけれど、ピエロなら人を笑わせるためにそれぐらいのことをやってくれそうな気もした。ピエロはおどけているが、その目は笑っていない。ピエロの身体は土に埋まったままだろう。なんだか哀しくなる。
ついつい掘り過ぎてしまったのだろう。掘りはじめると止められなくなる。そういうことは生活をしていくなかでもよくある。適当なところでストップすればいいものを、調子に乗ってついその先まで進んでしまい、見なくてもいいものを見たり、聞かなくていいものを聞いたり、知らなくてもいいものを知ったりしてしまい、後悔することがある。「ピエロの首」にすべてのものが含まれているように思った。ピエロはもう一人の自分かもしれない。『川柳新書 細川神楽男集』(1955年刊 川柳新書刊行会)所収。
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