樋口由紀子
ひと還る非常階段せまくても
本間美千子 (ほんま・みちこ) 1938~2001
「ひと」は自分のことではないだろう。傍観者として「ひと」を見ている。作者の身近な人、恋人か夫だろうか。雨露のしのげない外付けの非常階段がどんなに滑りやすくて上りにくくて狭かろうとも、それでもその「ひと」は還ってくる。
「還る」だから「帰る」よりもまっすぐではなく、なにやら複雑。それも非常階段、広い正面の一般的な階段を使わないのだから、何か事情がありそうである。たぶんそれは作者とも無関係ではなさそう。それでも、いやそれだからこそ「せまくても」還ってくる。彼女はあくまでも客観的に見ているようだが、冷静ではおれない。
11月26日は「意味なんて後からついてくる」と言った本間美千子の祥月命日。享年63歳、今の私の年齢。〈遠い国のあかい血をみたうたにした〉〈好きにいきたらええやんあさがお咲くあいだ〉〈真水真闇そろそろほうり出す一生〉〈おっかけっこは小銭落して猶予刑〉 『本間美千子川柳集』(2005年刊)所収。
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