樋口由紀子
レモン輪切りぐらいで満ちてくる神秘
多田誠子 (ただ・せいこ)
川柳は題が決められ競吟する文芸でもある。掲句は兼題「神秘」の入選句。「神秘」は「神」プラス「秘」。なんとも仰々しい言葉である。しかし、その「神秘」が「レモン輪切りぐらい」で「満ちてくる」ものだと作者は気づいた。日常とかけ離れていると思っていた「神秘」が身近なところにもあった。
夜空の星を見ていたら、神秘とはこういうものかもしれないと思うことはあっても、レモンを切ったくらいで神秘は感じなかった。確かにレモンを切るとつんとして、酸っぱいにおいが漂ってくる。今までそこにあった空気とは違う。「神秘」とは思わなかったが、言われてみれば「神秘」というものはそのようなものかもしれないと思った。「川柳たまの」(第57回玉野市民川柳大会 2006年刊)収録。
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