10句競作(第2回)応募作品
作品1点追加 2011.08.25
本誌募集の10句競作(第2回)は34作品と、前回と同様多数の御応募をいただきました。誠にありがとうございます。審査・選考の骨子・日程が決まりましたので、以下にお知らせいたします。
1 8月25日(木) ウラハイに応募作品を掲載(コメント欄に感想等を自由に書き込んでいただいて結構です)
2 9月1日(木)22:00より ●10句競作(第2回)の件審査選考ライブ。上記記事のコメント欄にて進行します。第2回の審査員は、榮猿丸氏、青山茂根氏、中村安伸氏。haiku&meの3氏です。
3 審査選考ライブにて、本誌掲載作品を決定(時間切れの場合、日時を改めて、続・審査選考ライブに決定を持ち越します。
4 【本日】9月6日(火)22:00より●10句競作(第2回)の件審査選考ライブ続編。上記記事のコメント欄にて進行します。第2回の審査員は、榮猿丸氏、青山茂根氏、中村安伸氏。haiku&meの3氏です。
感想etcはご自由に(≫コメントの書き込み方)
1日の審査選考ライブを待たずとも結構です。
更新ボタンorF5キーで、最新のコメントをお読みください。
●
9月6日(火)22:00より当エントリーのコメント欄にて。
青山茂根、榮猿丸、中村安伸の3氏による審査選考ライブ続編。
ご不明の点等ありましたら、seventhfox@gmail.com (生駒大祐宛)まで。
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【01 新・露出狂】
水泳帽を小田原に忘れけり
友人の紹介といふバナナなり
先生の桃色乳首草相撲
海月赤し深層心理なる夢精
緑蔭はどこへ水道管を罅
性的興奮中のはんざきなり
冷房に老いて激しき勃起なり
びちよびちよをぐちよぐちよにして桃食ひぬ
しやぶれしやぶりつけ西瓜しやぶりつくせ
戦後とはまさしく女陰大西日
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【02 株主総会】
想定問答繰返し明易し
株主の蟻の如くに来りけり
アイスティー飲み株主の語らへる
株主の席に置かるる団扇かな
会場のマイク係の玉の汗
異議なしに異議ありと云ふ白扇子
壇上の麦茶の滴だらけなる
円団扇決議に賛意示すかな
株主の後姿の夏帽子
総会の果て冷房の音大き
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【03 夏の傷痕】
炎昼のレバー貪るはとこかな
白南風の吾子の歯めきめき伸びにけり
服乱れしをんなゆるりと西瓜にのまれ
月光の乳房嬲る青鉛筆
二歳児に小児性愛を説く秋桜よ
台風や真つ赤になつてつきまとふ
なめくぢの残滓を跨ぐ団地妻
月光の石榴残してソープ嬢変死
夏の傷痕季節過ぎてもまだ癒えぬ
氷河期の気分味はふ雀かな
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【04 炎昼裡】
一行詩青い岬の尖端に
朝市の水が飛びつく跣かな
炎天や道は火が這ふ導火線
街中の印刷がずれ炎昼裡
炎帝に一縷の黒も許されず
大鳥居より片蔭を授かりぬ
風鈴のごと炎天に城うかぶ
蝉しぐれ寺院寺院に耳吊るし
はつきりもくつきりもゐる樹陰かな
ヨット入港夕焼けの幕が下り
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【05 座禅】
達磨さま蚊音にくしゃみ心太
仏法僧ストリートダンス木漏れ月
ヘッドフォンロックにしみる蝉の声
朝コーヒお釣りの手触れ梅雨晴間
目薬でまつげ流され戻り梅雨
炎暑かなお化け屋敷が停電し
日射病白犬家族ソフト舐め
イヤホンにうなじ取られて朝顔は
ボストンはクラムチャウダーしじみしる
日の本の達磨は起きる忍草
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【06 片膝】
上手より名優出でし夏芝居
新幹線改札口の花氷
地図にある川の蛇行や秋暑し
雑草を分けて水引草長し
八月大名港の見える座敷かな
片膝の膝にのりくる茄子の馬
皆人の整列したる流燈会
大広間静まり返る盆の月
銀漢の先端天主堂につき
流星の海へ海へと落ちゆけり
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【07 無限接点】
マンボウのまばたき車輪の発明
対話篇からはみ出す赤いストロー
泣きながら遠くへ投げる聴診器
長袖のシャツでくるんだ父の首
始まりを思い出すまで手をゆすぐ
消火用ホースに腋をくすぐられ
樹液すずやか責任感のある眼球
へその緒を液晶画面にくぐらせる
疼痛がノートに置いた玩具にも
日本語を嗅がすと汗をかく表土
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【08 夏休み】
甘味屋の夏暖簾より呼ばれけり
そこここに着信音や街薄暑
江ノ電の窓をはみ出す雲の峰
手作りの風鈴並ぶ無人駅
テーブルに猫の跳び乗る海の家
欄干に凭れてバナナ剥いてをり
玩具箱より溢れたる夏休み
宿題のノートに西日届きけり
ミルキーのとろんと甘く合歓の花
まだ潮の匂ひ残れる夏帽子
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【09 Summer In The City】
高速道の大き片蔭町つらぬく
美少女が団扇を配る繁華街
コンビニの埋蔵アイス探査せる
太陽と笑ひの飛沫区民プール
名画よく冷え冷房の美術館
駅徒歩5分マンション全戸西日のドア
夕焼の残照に浮く高層ビル
パチンコにつぎ込み夏の星降らす
駅のホーム混み合へれども夜涼かな
列車の灯銀の鎖や夏の果
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【10 夜 叉】
葛あらし絡繰木偶が夜叉となる
なまなまと海鳥の鳴く展墓かな
潮嗄れて天牛鳴くよ箱の中
人形を焼く栴檀の実の下に
穂孕みの風に柩を運び出す
早稲の匂ふや骨壷に骨満ちて
月代の裏戸より舟出しにけり
月待つや肉桂の枝噛みながら
蛇穴に入る時きつと宙を見る
曼珠沙華眼の筋肉の衰へて
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【11 蝉鳴くや】
山門に気勢をあぐる蝉嵐
向日葵の千の眼の見し殺人者
被災地の牛舎に残る扇風機
虹の橋登りはじめる兎と亀
驟雨きて街に火薬の臭ひ満つ
遠雷と原発事故の光化学
金蝿よ俺の額は生きてゐる
蝉鳴くや六日九日十五日
炎天に孤独死のゼロの広報車
ブナ林にゲンパツと鳴く秋の蝉
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【12 情熱諸島】
不意打ちは女人高野の自販機か
にせもののタンバリン買うかの裸族
情熱でやつめうなぎにふたをする
怪獣のかさぶたじょうの和平かな
鶏頭とするだるまさんがころんだ
仏壇を投げればぜんぶコヨーテだ
肺も骨も脳をおいぬき秋の朝
ながれぼし一円玉は浮きすぎる
横綱は枯葉をつけて現れる
青葱のしろいところは父の番
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【13 地球空洞説】
行き止まりばかりではない半ズボン
萬歳に圍まれてゐる暑さかな
アルピノがアルピノを喰ふ夏館
夏草の誰かが掘つた落とし穴
生き埋めになることもある流れ星
地下道の階段濡らすラムネかな
ダダ漏れの個人情報蟻地獄
夏蝶や地球の裏側へと放つ
ラッカーとポーとウェルズと夏料理
これからは嘘だけついて端居して
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【14 だれにともなく】
なにがなし桑の実食うて国想ふ
水馬たゆまずやまずおなじ位置
幼ゆび指せばへんぽん蛇の衣
遠花火音待つこころ沸と湧く
燕の巣そこに迂曲の風とほる
蝙蝠のばらばら騒ぎくる逢瀬
うつしよの蛇身曝して川渡り
採血の針刺し直すアマリリス
またひとつ夕日が沈む原爆忌
蝉時雨だれにともなく黙祷し
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【15 夏の果】
本堂の無道の墨書涼しかり
イエスタデーBGМに魂迎
黒文字の水羊羹をなだれゆく
空蝉となり静脈をさらしをり
みんみんのみんともいはず夏の果
高殿を深くとよもす法師蝉
夕暮れて蝉時雨より虫時雨
田の神のビルの間や秋暑し
折鶴の白ばかりつり稲つるび
遠くより煙の匂ひつづれさせ
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【16 ヴァカンス】
豊の秋たましひつぶしたまふ日の
発語して光をにごす須臾となる
天と地を構造できず百舌しづか
われもかうゐるやうでゐてゐないやう
イッヒ・ロマン棄てにけり小鳥くるたびに
空棚に在るいつまでも鳥影が
白桃の手よまれびとを抱かずとも
宵闇や白い果肉に食われゆく
あてのない手紙のやうに折れ曲がる
ヴァカンスやすべからく季節崩ゆるべし
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【17 雨】
バナナ腐る雨は降らないだろう傘折る
ハリボテのソフトクリーム雨に溶ける
よほほと嗤ふあんなに快晴だつたのによほほ
嗚呼予想を裏切つてカアテンの裾が濡れた
雨降る否降りやがるのだキスしたら駄目かよ
喧嘩した雨音のかゞやきが邪魔で邪魔で
手をつないでやらんでもない水たまり
びちゃびちゃのブランコ漕いで乾くまで逃げんな
いろんなものが滴るなかに手もあった
この雨を無理やりまとめる虹を作らう
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【18 夏桃さん】
冷蔵庫の中から取り出す夏休み
黄桃をもてはやしてる吉祥寺
どぶ川に流れるきみの桃本や
夏の日にコンドームと桃拾う友
あと少しあいつの桃の季も終はる
白桃の如きあなたの膝枕
ストッキング皮を脱がせて食べやうか
半分にけつを割つたら美味な汁
願わくは桃の忌になれ くそやろう
白桃はシンデレラなので帰ります
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【19 離味句素】
吾一人置いて立ち去る鰻かな
いかづちにまかせて泣けよオットピン-S
酸漿剥いて歯科を明るくしてあげた
天の川わたる南京豆離脱
幻影は二十世紀を齧る姉か
エレジーのたとへば秋の小樽運河
排卵がなくて滑子のしらべかな
鹿威し貫く業の如きもの
渋柿や痴狂ひにして人の美味
人間を並べておけば交(さか)るなり
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【20 晩夏】
吹き抜けのヨガスタジオや仏桑花
バナナ食ぶ朝一番のヨガクラス
ピアソラに酔ふごと昼の冷酒かな
夏深し崩して食ぶるタコライス
晩夏へとロングボードの漕ぎ出しぬ
モニターに映る花道秋立てり
秋蟬や公園に向く楽屋口
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
虫の音や補修されたる歌詞カード
輸入盤開けると匂ふ夜長かな
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【21 行つたきり】
うきくさの高きところに星盛る
箱庭を真白き舟のもり上がる
あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり
洗つても洗つても砂大西日
蓮の葉と空の埋もれて午後来たる
階段の蟬の骸が濡れてゐる
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに
初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき
月の出を待つ間に森の闌けにけり
おとうとの七夕笹の行つたきり
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【22 あちら・こちら】
草刈の野にひしめくや小説家
蜘蛛の囲や少女のふるふ大鋏
ゆらゆらと子ら運ばれてゆく緑
輪郭の確かなわたし髪洗ふ
夏月に眠りの糸が垂れてをり
花あやめここは子供の来ない家
箱庭に人差し指を棲ませけり
ちちははの緩慢な水あそびかな
蛇苺そこから先が死者の国
たましひのかたちの小石夏ともし
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【23 生簀】
花過ぎてプロレスの来る広場かな
噴水に鳥の名あまた知る人と
プールより見ゆる生簀のレストラン
一雨きて蛍日和と言ひにけり
とりあへず丼に受く兜虫
盆僧のまへにビー玉転がり来
アッパッパつかめば婆が抜け落ちる
草笛吹くデモ行進に連なりて
恐竜の尻尾重たし夏の果
三叉路の左右とも霧うしろも霧
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【24 果実】
ハート型蜜内蔵のリンゴ一顆
花のごと皮をひろげてミカン食ぶ
黒ブドウ一粒ごとの一輝点
イチヂクや平然とつく嘘に嘘
ザクロ裂くまず付け爪を外しては
前世はバナナと信じつつ食す
握りたる手よりトマトの溢れ出す
石版の堅さ冷たさみたいなナシ
眼窩にはイチゴををさめ少女たち
書信代はりに送る富有柿ふたつ
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【25 暮れる】
蛇口より懐かしきものかよひくる
渦巻の途中の二重丸は良し
花びらの目ならば目びらとも言ひぬ
似顔絵とならずに顔の絵が暮れる
引つかけるため頂点が三日月で
蔓巻きぬ楽器となれば良かりける
海賊は水を含んで重かりき
されば鮫を次男とすれば分かるなり
魂と裸連結して褌
冬空に干せば消しゴムらしくなる
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【26 全力】
マスクして菜虫を殺す霧をゆく
ががんぼの窓を叩いてゐる全力
羽蟻に羽ありて暮らしは変はりなし
灯を消して火蛾百匹とゐるぬめり
蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある
黒蟻の何も担がぬ白き昼
糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち
蝉落ちてお悔やみ欄に乗せてやる
放埒の貌を叩いて黄金虫
十匹に一匹足りぬ晩夏かな
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【27 三分の一】
初夢に母と話せば覚めにけり
子の肩に触れてはじけししやぼん玉
春愁ピアノの埃つよく拭く
振り返りやがてまつすぐ入学子
ふらここを少し揺らして降りにけり
後ろ手に子は手紙持ち母の日よ
初任給手渡してゐる帰省かな
打解けしいとこ同士や踊の輪
全集の前の持ち主夜の秋
抽出しに方位磁石や夏の果
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【28 夏の谺】
夏館ソプラノ纏ふ天使像
一眼のあり向日葵も原子炉も
夏深し闇に伸びゆく倉梯子
いま吾子にはじめの記憶草清水
冷酒一盞雲滑らせて空は坂
泣き終へて松山鮨のどこ崩そ
木曜のくちづけ涼し切子玉
ラマダンの大皿に盛るダリヤかな
花火の夜人を待たせて遠目なり
二万年のちにも仔ども猫じやらし
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【29 尾行】
テロリストの墓飾るための菊ことごとく
黒猫に尾行されてた月角曲がる
髪洗ふ巫女百人の紅き爪
チェシャ猫一番涼しい場所に浮いている
君の体届けに君の棺追ふ月夜
猫のゾンビ鼠のゾンビと虹ばかり
青い月。暗闇にリムられてゐる
最初の猫がまだ遊んでる宵闇
十年分の抗鬱剤ぶちまける秋の海
夜開く猫の保健室の風鈴
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【30 夜の果ての旅】
忘却の革命の血のさくらんぼ
シエスタの人買ひ薄目あけて眠る
殺むれば音の気になる冷蔵庫
疲鵜にだいぢやうぶだいぢやうぶと云はれけり
八月の甘納豆を深読みす
へうたんにハイとこたへて魂(たま)抜かれ
ジョーホーホシジョーホーホシと秋の蝉
水澄むや一つ根に離れ浮く平和利用と核武装
心中の片割れとして盆をどり
「夜の果ての旅」に誘ひぬ夜学子は
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【31 春雷】
風雪に曲がりし木々も芽吹きたる
或る日胸に春雷が落ち今がある
玫瑰や雨に消されし波の音
病葉の重なりゆける水の底
ひねくれし胡瓜どれもが無農薬
ふたりとは一人と独り夜の秋
砕け散る硝子色なき風となる
倒れてもおのれを曲げず曼珠沙華
音もなく翅を使ひし冬の蠅
星冴えて太古の空を取りもどす
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【32 十点鐘】
一月三十一日 ジャイアント馬場
王道忌静かなる光源月明かり
四月二十八日 ルー・テーズ
鉄人忌しなやかな筋肉(にく)の美しき
五月十三日 ジャンボ鶴田
怪物忌書き掛け論文めくる風
六月十三日 三沢光晴
喉鳴らし猫の背伸びや翠玉忌
七月十一日 橋本慎也
豪雨去り天跨ぐ虹爆勝忌
七月十七日 ブルーザー・ブロディ
超獣忌雄叫びこだまし空を舞う
七月二十八日 カール・ゴッチ
偉大なる力の哲学ゴッチの忌
八月二十八日 山本小鉄
道場に古びた竹刀や軍曹忌
十一月二十五日 星野勘太郎
喧嘩屋の拳の早し突貫忌
十二月十五日 力道山
人を超え神となる意志力道山光浩の忌
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【33 卯の花にほふ】
郭公や次男に妻のやうな嫁
青かへで小股の切れたをなご抱く
入道雲抱へきれないまま絶句
卯の花にほふ「かあさん」と言ふ口癖
残暑かな「雨ニモマケズ」を諳んじる
線香のけむり真っ直ぐ遠花火
時計草虫の音止むと泣く子かな
締め切り迫る鈴虫に部屋明け渡す
悪字を打つパソコン画面水中り
クマゼミ鳴くマイクを持った好好爺
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【34 御来迎】
山彦に応へて手振る雲の峰
空眩し雲海の上に出でたれば
赤岩の頭と称へ雲海に
御来迎斜め後ろに立ちてゐし
御来迎虹に呑まれて消えにけり
駒草に近づけてゐる目鼻かな
駒草やカイゼル髭を撥ね上げて
駒草や八ヶ岳(ヤツ)の外れの天狗岳
マジックの校名かすれ大テント
天幕村に酒飲みに来し小屋泊まり
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
以上 34作品
●
2011年9月6日火曜日
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328 件のコメント:
«最後 ‹次 201 – 328 / 328【15 夏の果】
固有名詞の使い方など、言葉の選択にやや大仰というか芝居がかったところがある。それが良い方向に出ているのが、
折鶴の白ばかりつり稲つるび
この句は折り鶴の白に反射する稲妻の、光の印象があざやかで良い。
【15 夏の果】 語彙もなかなか、季語の斡旋も考慮されていて。ただの描写に陥らない句がいいですね。
○「折鶴の白ばかりつり稲つるび」豊作への祈りながら傷み、畏れを含む。光るたびに窓際の鶴が浮かび上がって。
○「遠くより煙の匂ひつづれさせ」嗅覚、視覚に音を配して、なつかしき景でしょうか、
△「高殿を深くとよもす法師蝉」
「空蝉となり静脈をさらしをり」
「折鶴の白ばかりつり稲つるび」
がかなり好きです。型ができているので伝わりにくい表現を直して行くと良いのではないかと思いました。
あれ、なかなか更新されなかったぞ。
【15 夏の果】
ちょっと難解な句、類想感ある句、意味が出過ぎている句、と、ちょっと揃っていない印象でした。
〈遠くより煙の匂ひつづれさせ〉一番地味な句ですけど、好きでした。嗅覚と聴覚が静けさを際立たせ、茫漠とした感情が捉えられていると思います。
次。
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【16 ヴァカンス】
豊の秋たましひつぶしたまふ日の
発語して光をにごす須臾となる
天と地を構造できず百舌しづか
われもかうゐるやうでゐてゐないやう
イッヒ・ロマン棄てにけり小鳥くるたびに
空棚に在るいつまでも鳥影が
白桃の手よまれびとを抱かずとも
宵闇や白い果肉に食われゆく
あてのない手紙のやうに折れ曲がる
ヴァカンスやすべからく季節崩ゆるべし
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安伸さんの点が入っています。
避暑地の非日常的な雰囲気、夕暮れの光のなかで腐ってゆく果実のようななアンニュイな感じに惹かれた。
すこし衒学的な用語も独特の退廃的な空気にマッチしていて、濃厚な色気を生み出している。
宵闇や白い果肉に食われゆく
薄い闇と、光をまとう果肉が食し合うエロチシズム。
ヴァカンスやすべからく季節崩ゆるべし
ゴージャスな倦怠感というか、ニヒルな感じがいいです。
あてのない手紙のやうに折れ曲がる
「あてのない」がちょっとインパクト弱いか。
【16 ヴァカンス】不思議な世界へいこうとしている句でした。文体もさまざまに駆使していて好感をもちました。時折独善のままの句が惜しかったかも。
△「天と地を構造できず百舌しづか」
△「われもかうゐるやうでゐてゐないやう」わからないが魅力的な文体。さびしげな花の形の風にゆれるさまを平仮名表記であらわしているのでしょうか。
○「空棚に在るいつまでも鳥影が」残像として、形も印象に残る句。鳥渡るなのか小鳥なのか不明だが、それもどちらでもいいような。そんな現前の区別より存在自体を語っているようで魅了される句でした。
これは良い不思議さですね。
「あてのない手紙のやうに折れ曲がる」
は安伸さんと同意見で上五が弱いかなと。
「豊の秋たましひつぶしたまふ日の」
の季語のヘンさとか、愛せます。
【16 ヴァカンス】
これも難しかった。言葉を用いて世界を再構築しようという意思を感じましたが。〈空棚に在るいつまでも鳥影が〉これは印象的でした。心象風景としても冴えている。〈宵闇や白い果肉に食われゆく〉これも同様。安伸さんが推すのはわかります。とても力を感じましたが、ぼくは読み切れませんでした。
猿丸さん
>言葉を用いて世界を再構築しようという意思を感じましたが。
僕も同じように感じました。他者との妥協点をどこに見つけるかですね。
次です。
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【17 雨】
バナナ腐る雨は降らないだろう傘折る
ハリボテのソフトクリーム雨に溶ける
よほほと嗤ふあんなに快晴だつたのによほほ
嗚呼予想を裏切つてカアテンの裾が濡れた
雨降る否降りやがるのだキスしたら駄目かよ
喧嘩した雨音のかゞやきが邪魔で邪魔で
手をつないでやらんでもない水たまり
びちゃびちゃのブランコ漕いで乾くまで逃げんな
いろんなものが滴るなかに手もあった
この雨を無理やりまとめる虹を作らう
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これは話し合ったのでなにかあれば。
【17 雨】一連としての魅力があります。雨に様々な情景のオーヴァーラップ。ただ雨の詩情は、映画などで様々にすでに表現された前例あるので、自分は驚きませんでした。リフレインは必然かどうでしょうか。誰もみつけていないオノマトペに驚きたいです。
○「いろんなものが滴るなかに手もあった」謎、しかし過去のホロコーストの記憶のようで。この口語体は内容にあっていると思いました。
特に付け加えることはないです。
私も。次行きましょう。
では次に行きます。
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【18 夏桃さん】
冷蔵庫の中から取り出す夏休み
黄桃をもてはやしてる吉祥寺
どぶ川に流れるきみの桃本や
夏の日にコンドームと桃拾う友
あと少しあいつの桃の季も終はる
白桃の如きあなたの膝枕
ストッキング皮を脱がせて食べやうか
半分にけつを割つたら美味な汁
願わくは桃の忌になれ くそやろう
白桃はシンデレラなので帰ります
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ワンテーマで統一した意欲的な作品です。
桃本ってなんでしょうね。
【18 夏桃さん】 一句目からの展開がある面白さは好感をもちました。あとは誰も手をつけてない比喩、表現があるとよかったでしょうか。。
○ 「冷蔵庫の中から取り出す夏休み」個々の物体ではなく、そういった気分を蔵して。夏休み感でている。なかなか秀逸と思います。
△「白桃の如きあなたの膝枕」比喩としては平凡だが。愛のうたとしてひかれました。
桃をエロティックな表象として使うのは、多少変化球もあるとはいえ常套的な気がします。
それから、当然ながら言葉を乱暴に扱ったからといって読者に衝撃を与えられるとは限らない。
白桃はシンデレラなので帰ります
この句の「白桃」はちょっと違うトーンで使われているのと、セリフ仕立てにしたことが成功している。
あくまで一句を独立させて読めばですが。
ええと、皆さんが海外行くと買ってくる雑誌では?
【18 夏桃さん】
この桃の象徴的な扱い方は、やはりちょっと陳腐に感じてしまいました。〈願わくは桃の忌になれ くそやろう〉このくらいやけっぱちになればいいかも。
僕も前に桃は象徴的になりやすいといわれて納得した覚えがあります。「梨」とかで10句象徴的に作れたらより面白いのかも。
次です。
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【19 離味句素】
吾一人置いて立ち去る鰻かな
いかづちにまかせて泣けよオットピン-S
酸漿剥いて歯科を明るくしてあげた
天の川わたる南京豆離脱
幻影は二十世紀を齧る姉か
エレジーのたとへば秋の小樽運河
排卵がなくて滑子のしらべかな
鹿威し貫く業の如きもの
渋柿や痴狂ひにして人の美味
人間を並べておけば交(さか)るなり
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
答え合わせをお願いいたします(笑)。
【19 離味句素】
俳句のリミックスの試みということだと思いますが……リミックスは難しいですね。試みは買います。
【19 離味句素】タイトルの読みは「リミックス」でOK?すべて過去のパロディ句で構成していますね。こういう試みを出すのも面白いので評価です。時々混ざる悪ノリ句が残念でした。
○「天の川わたる南京豆離脱」離脱笑える。原句と同じ豆系だが、下五で意外性あるので○と思います。
△「幻影は二十世紀を齧る姉か」
○「エレジーのたとへば秋の小樽運河」赤色エレジー byあがた森魚。かつて鰊漁で栄えた小樽あたりの情趣は出ています。
原句を最小限の変更で、まったく違う世界に転換することで笑いをもたらすのがパロディーとすると、非常に上手くいっているのが、
人間を並べておけば交(さか)るなり
ただ、他の句はこれに比べるとあまりうまくいっていない気がします。
原句についてはちゃんと調べる余裕がなかったので、すみません。あとで作者にお願いしましょう。
僕としては笑えるのでOKですね。賞という枠には不向きかもしれません。
続いて、
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【20 晩夏】
吹き抜けのヨガスタジオや仏桑花
バナナ食ぶ朝一番のヨガクラス
ピアソラに酔ふごと昼の冷酒かな
夏深し崩して食ぶるタコライス
晩夏へとロングボードの漕ぎ出しぬ
モニターに映る花道秋立てり
秋蟬や公園に向く楽屋口
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
虫の音や補修されたる歌詞カード
輸入盤開けると匂ふ夜長かな
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猿丸さんの並選です。
音楽、ダンス、演劇などに取材した作品群で、おそらくは作者の身近な興味のある分野なのだろう。
題材との距離感で統一感が出ている。
全体的にとりあわせの距離感が近めのものが多い。
ただ、取り合わせによってマイナスになっているような作品はなく、平均して高いレベルにあると思う。
モニターに映る花道秋立てり
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
虫の音や補修されたる歌詞カード
これらの句は着眼点のよさで成功していると思う。個人的に取り合わせでもう少し冒険したものがあってもよかったかも。
【20 晩夏】ふと振り向いたときに見つけたような世界良いです。後半どんどんよくなるが、懲りすぎのどうだ、という感じがなく、流れ、言葉のあっせんも巧みです。小劇場ものでまとめてもよかったでしょうか。一句目とラストが逆だと面白い。
△「モニターに映る花道秋立てり」あの独特のブルーっぽい画面、それを初秋の空気とみた。この感性を評価。
○「秋蝉や公園に向く楽屋口」扉をあげると、暗い木立がひろがっている発見。明から暗への描写に音を加えて。
△「虫の音や補修されたる歌詞カード」
○「輸入盤開けると匂ふ夜長かな」季語に合う。針飛びしていつまでも回っている盤が夜長を思わせて。そしてあの匂い。
そう、近いかも。
【20 晩夏】
正直言うと、句の完成度ということでみると上位5作品に入ってこないのですが、ではなぜ入れたのかというと、この作品に、なにかキラキラしたものというか、可能性を感じたからです。とても素直で、素直というのは一つの才能だと思うんですけど、視点もよくて、自分の目を通して捉えているのに好感を持ちました。そう見ると、どれも惜しく感じちゃう。
モニターに映る花道秋立てり
モニターがどこにあるものなのか、わからないのが惜しいです。ぼくは劇場のロビー等に設置してあるのを思いました。モニターに舞台の花道が映っている。まだ開演前か、中入りの休憩時間か、人がいない花道を想像しました。モニターに映った誰もいない花道に秋が来ている、立っている。モニター越しに、とずらしてあるのが、夏真っ盛りの中の「秋」という季節を捉える道具仕立てとして、うまいなあと思いました。
小劇場のチラシ分厚き世阿弥の忌
季語がベタですけど、僕は忌日の句にかぎってはベタでいいと思っています。ただ、「分厚き」だと、厚紙のチラシなのかなと思ってしまいますね。何枚ものチラシの嵩、という分厚さだと句意は伝わりますけど。伝わればいいってもんではない。
虫の音や補修されたる歌詞カード
なぜ音の季語を出すのか。もったいないです。それと中七の「補修されたる」がたんなる説明になってしまっているのが残念。ここで描写しないと。継いだ部分の白い裂け目やセロテープの質感、あるいは糊の乾いた紙の張り具合、など、見せてほしいです。そこから世界がブワーッと拡がるのだから。
輸入盤開けると匂ふ夜長かな
これも「開ける」が雑。「封切る」とか(古いか)気張ってほしい。
いろいろ言いましたが、時間をかけて推敲すれば、どれも良くなる句だと思いました。言いたいこと言ってしまってすみません。
猿丸さんの力の入った評が出ました。
>この作品に、なにかキラキラしたものというか、可能性を感じたからです。とても素直で、素直というのは一つの才能だと思うんですけど、視点もよくて、自分の目を通して捉えているのに好感を持ちました。
うらやましいです。
では次は第一席なので飛ばしまして、
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【22 あちら・こちら】
草刈の野にひしめくや小説家
蜘蛛の囲や少女のふるふ大鋏
ゆらゆらと子ら運ばれてゆく緑
輪郭の確かなわたし髪洗ふ
夏月に眠りの糸が垂れてをり
花あやめここは子供の来ない家
箱庭に人差し指を棲ませけり
ちちははの緩慢な水あそびかな
蛇苺そこから先が死者の国
たましひのかたちの小石夏ともし
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「モニターに映る花道」
はおそらく新橋演舞場の三階席にあるものでしょうね。
楽屋ともとれなくはないですが。
え、21とばすの?
ま、いいです。
22 あちら・こちら】いくつかの 不条理さをはらんだ句が面白いです。ときおり常套的表現になるのが惜しいかも。
○「蜘蛛の囲や少女のふるふ大鋏」糸をはらうため、と条件付けに見えてしまうが、ドラマチックな句。
○「輪郭の確かなわたし髪洗ふ」不確かな世の中で自分だけが確かなもの。(朧夜のかたまりとしてもの思ふ 楸邨)と同じ様なものを詠んで季語が実感あります。
○「ちちははの緩慢な水あそびかな」ちょっと鳥居真里子さんの世界を思います。不条理さの魅力でしょうか。
すみません。つけたしがあるなら是非。
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【21 行つたきり】
うきくさの高きところに星盛る
箱庭を真白き舟のもり上がる
あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり
洗つても洗つても砂大西日
蓮の葉と空の埋もれて午後来たる
階段の蟬の骸が濡れてゐる
鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに
初秋やゆふかぜ朱鷺に長くふき
月の出を待つ間に森の闌けにけり
おとうとの七夕笹の行つたきり
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むしろ欠点を指摘するのも価値があるかも。
うん、一席だからそれでおしまい、では無いと思う。どこが評価されて、どこを欠点とされたのか作者に伝えたほうが親切では。
【21 行つたきり】前回申し述べました。ひとつ、皆様評価していたので何ですが、蜘蛛の囲に水滴は類想あるかも。しかし語り口は非常にうまいと思います。
○「箱庭を真白き舟のもり上がる」色彩鮮明だが、下五の表現が独特で、す。
○「洗つても洗つても砂大西日」終わらない動作に焦点をあてて西日の強さを描き出す。これも巧み。
○「蓮の葉と空の埋もれて午後来たる」これも下五が成功。混み合った池とその上の雲が出てきた空。文体の選択もいいです。
△「階段の蟬の骸が濡れてゐる」
○「鳥飛ぶ仕組み水引草の上向きに」世の中の事象を一度疑ってみる。何気ない景へ視点を移動して。そこから生まれる詩情。
○「おとうとの七夕笹の行つたきり」笹流し、せつなさ。亡くなったおとうとかとも思える。ツイッターで言われてたようにもしかして震災にあった方かもしれないが、全くそれのみの表現にならない手腕ですね。
【22 あちら・こちら】
〈輪郭の確かなわたし髪洗ふ〉〈花あやめここは子供の来ない家〉〈ちちははの緩慢な水あそびかな〉日常の中の異界性、というと(ぼくの表現が)陳腐ですけど、日常の中にある〈ずれ〉を見逃さず、独特の感受性で描ききっている。たしかな世界を持っている方だと思いました。
【21 行つたきり】
〈あたらしき蜘蛛の囲に水つもりけり〉たしかに景としてはたくさん詠まれていますが、「つもりけり」と言ったのはないんじゃないですか。そこに違和感を感じる人もいると思いますが。
安伸さんは【21 行つたきり】 についてつけたしなどどうですか?
はい、表現で成功していると思います。しかし、新しい句ではないですと付け加えたかったので。
【21 行つたきり】
これに関しては前回述べましたが、あえて欠点というか、気になる点をあげるなら
洗つても洗つても砂大西日
はすこし雑ではないかという気がしました。
安伸さん、ありがとうございます。
続いて【22 あちら・こちら】についてもお願いいたします。
あくまで、他の句の繊細さに比べるとということですが。
【22 あちら・こちら】
異界と日常の境界をたんねんにさぐっているような作品。ただしタイトルがネタバレになっているような気もする。
輪郭の確かなわたし髪洗ふ
「確か」という言葉が逆に不安を感じさせる。髪を洗うことで自分が自分である境界を確認しているような感じ。
あ、21についてですが、「蜘蛛の囲」への茂根さんの指摘、「洗っても」への安伸さんの指摘、いずれも首肯。
しかし、分かるところと分からないところのバランス感覚の良さは頭ひとつ抜けていて、それが良かったのではないかと思いました。
【22 あちら・こちら】もかなりその点でバランスが取れていて、(タイトルに難は少し感じますが)僕は好きです。
すこしばたばたしましたが、次へ行きます。時間的には、延長戦です。
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【23 生簀】
花過ぎてプロレスの来る広場かな
噴水に鳥の名あまた知る人と
プールより見ゆる生簀のレストラン
一雨きて蛍日和と言ひにけり
とりあへず丼に受く兜虫
盆僧のまへにビー玉転がり来
アッパッパつかめば婆が抜け落ちる
草笛吹くデモ行進に連なりて
恐竜の尻尾重たし夏の果
三叉路の左右とも霧うしろも霧
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茂根さんと猿丸さんの並選が入っています。人気作品ですね。
【23 生簀】誰も描いてない世界を描く力はあると思います、諧謔性もいいです。
△「花過ぎてプロレスの来る広場かな」そのころの情趣。
○「アッパッパつかめば婆が抜け落ちる」おかしみと、いかにもアッパッパらしさの描写と。やせている様子もまさしく。文体も内容に適確。
○「恐竜の尻尾重たし夏の果」不思議な実感あります。
【23 生簀】
俳諧精神というのかな、諧謔の中に、存在や事象の不可思議さを捉えていると思いました。「アッパッパつかめば婆が抜け落ちる」面白かったです。滑稽の中にも、婆という生身魂の存在の軽さ、いや不思議さが出ている。「草笛吹くデモ行進に連なりて」これも面白いです。現代の気分がある。きれいな音が出てたりしたら面白い。みんな振り向いたりして。「噴水に鳥の名あまた知る人と」噴水広場って、鳩かカラスしかいないと思うけど…というところが面白い。
からっとした諧謔が楽しかった。レベルが高く安定している。
プールより見ゆる生簀のレストラン
景がはっきりと浮かぶだけでなく、プールと生簀の相似関係が諧謔になっている。
過不足がなくスタイリッシュでもある。
アッパッパつかめば婆が抜け落ちる
おかしみに寄り過ぎて、やや抑えが効いていない気がする。
「プールより見ゆる生簀のレストラン」
が好き句。
季語に手だれ感がありました。
次です。
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【24 果実】
ハート型蜜内蔵のリンゴ一顆
花のごと皮をひろげてミカン食ぶ
黒ブドウ一粒ごとの一輝点
イチヂクや平然とつく嘘に嘘
ザクロ裂くまず付け爪を外しては
前世はバナナと信じつつ食す
握りたる手よりトマトの溢れ出す
石版の堅さ冷たさみたいなナシ
眼窩にはイチゴををさめ少女たち
書信代はりに送る富有柿ふたつ
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【24 果実】 テーマの統一性は好感でした。比喩にもう少し飛躍があればという句、類想が惜しかった句がありました。
○「眼窩にはイチゴををさめ少女たち」少女の無機質な表情、不気味さを詠んでいるようで魅力的な句です。硬質な言葉の選択もよいと思います。すべてこのくらいの飛躍があってもよかったでしょうか。
果実というタイトルが直接的すぎる。句は果実をテーマにしているという点で一貫性があるが句の傾向はかなり多様。
眼窩にはイチゴををさめ少女たち
かわいいとグロテスクの境界を狙って、ものすごくグロテスクになったという感じの作品。他の句とかなりトーンが違っていてインパクトがあった。
茂根さん
>比喩にもう少し飛躍があればという句、類想が惜しかった句がありました。
同意。
僕も
「眼窩にはイチゴををさめ少女たち」
が好きでした。成功していると思います。
【24 果実】
全句果実ということもあってか、かわいい印象。〈眼窩にはイチゴををさめ少女たち〉かわいさとグロテスクさと。ガーリーさ、出ているのでは。〈ザクロ裂くまず付け爪を外しては〉付け爪でザクロを裂いたほうが面白い。
猿丸さん
>付け爪でザクロを裂いたほうが面白い。
猿丸さんらしいコメント。いいですね。
次です。
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【25 暮れる】
蛇口より懐かしきものかよひくる
渦巻の途中の二重丸は良し
花びらの目ならば目びらとも言ひぬ
似顔絵とならずに顔の絵が暮れる
引つかけるため頂点が三日月で
蔓巻きぬ楽器となれば良かりける
海賊は水を含んで重かりき
されば鮫を次男とすれば分かるなり
魂と裸連結して褌
冬空に干せば消しゴムらしくなる
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茂根さんの並選。
【25 暮れる】これも当初、かなりポイントが高かったです。様々な文体を駆使しているし、どこかに少しユーモアを含んで。今回の全作品の中でもっとも好きな句がありました。考えた末に外したのは、主観的表現の多さが気になってでしょうか。
○「蛇口より懐かしきものかよひくる」そういわれると、夏のなまぬるい水、赤錆くささ、真冬の冷たさなどがありありと実感でせまってくるのです。なんでもないことをいいながら、不思議な力のある句です。
○「渦巻の途中の二重丸は良し」なんだか真理のようで。蚊取り線香の使い残りもイメージさせます。
△「花びらの目ならば目びらとも言ひぬ」言い切りの形がうまくて、作者の主観につきあわされつつ、そうかも、とうなづいてしまう。
△「似顔絵とならずに顔の絵が暮れる」写楽の首絵も思い浮かびます。自画像のようでもあり、暮れる、で不気味さも表現しています。
△「引つかけるため頂点が三日月で」形状でありつつもイスラム教のしるしを詠んでいるようにも。
◎「海賊は水を含んで重かりき」これが今回の前作の中で最も好きでした。何か可笑しくて、でも、真理をついているようで。突拍子もないことをいうとき、文体を手堅く、描写に徹する好例でしょうか。
○「魂と裸連結して褌」
あ、前作→全作
句の焦点をぼかしたような、思わせぶりな作り方の句が多く、以下の句のように成功しているものはとても味わいがある。
蔓巻きぬ楽器となれば良かりける
一方で拡散しているという印象だけが残った句もあった。
あれ?更新されない
【25 暮れる】
〈魂と裸連結して褌〉「魂」「裸」「褌」という字面の面白さもあいまって、妙な説得力あり。他の句、感覚的なところを狙っているが、句の核が見えなさすぎる気がしました。
すごくいいところを言っている一方で、「とも言ひぬ」、「となれば良かりける」など、(僕だけかもしれませんが)文体で損をしているなと思いました。
「渦巻の途中の二重丸は良し」
の断定は良いです。
では次です。
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【26 全力】
マスクして菜虫を殺す霧をゆく
ががんぼの窓を叩いてゐる全力
羽蟻に羽ありて暮らしは変はりなし
灯を消して火蛾百匹とゐるぬめり
蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある
黒蟻の何も担がぬ白き昼
糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち
蝉落ちてお悔やみ欄に乗せてやる
放埒の貌を叩いて黄金虫
十匹に一匹足りぬ晩夏かな
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茂根さん特選、安伸さん並選です。是非付け加えてください。
じゃ、入れます。
【26 全力】確かに似た形式の句の多さは目につきます。でもそれは、並べ方が身についていないのだと思います。これから、を感じさせるものをもっている作者と思います。やはり、誰も詠んでいない世界を、特異な言葉に頼らずに詠める方に期待します。
○「蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある」音に着目して、それを翌日にデジャヴとして詠んだ蜘蛛の句は初めて見ました。
△「黒蟻の何も担がぬ白き昼」少し、色の対比が作為的に感じますが、白昼の表現として影であり不気味さも。
△「糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち」
○「蝉落ちてお悔やみ欄に乗せてやる」
○「放埒の貌を叩いて黄金虫」金亀子打つという句はごまんとあるが、その顔を適確に描いたものはなかったです。放埓とは言いえて妙、とにかくずうずうしくよくいる害虫なので。
○「十匹に一匹足りぬ晩夏かな」
【26 全力】ぼくはちょっと演出過剰に感じてしまって、採れませんでした。
前回は以下の三句を評価しましたが、
蜘蛛潰す音つぎの日もそこにある
黒蟻の何も担がぬ白き昼
糸蜻蛉墓石は聖書開くかたち
このなかではとくに「糸蜻蛉」がいいです。
「聖書開くかたち」と現在形で書いたところが、墓石でありながらポジティブな感じというか。
全体の雰囲気は非常に好きなのですが、
最後の
「十匹に一匹足りぬ晩夏かな」
のメタ的な落とし方ははたして成功しているのか。ちょっと迷うところ。
「マスクして菜虫を殺す霧をゆく」
は良いと思いました。
次です。
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【27 三分の一】
初夢に母と話せば覚めにけり
子の肩に触れてはじけししやぼん玉
春愁ピアノの埃つよく拭く
振り返りやがてまつすぐ入学子
ふらここを少し揺らして降りにけり
後ろ手に子は手紙持ち母の日よ
初任給手渡してゐる帰省かな
打解けしいとこ同士や踊の輪
全集の前の持ち主夜の秋
抽出しに方位磁石や夏の果
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猿丸さんの並選です。
まっとうな作品。
「ふらここを少し揺らして降りにけり」
のさびしさはかなり好きでした。
【27 三分の一】とてもきれいに手堅くまとめられていて、ほっとします。平明すぎるのが惜しいところでしょうか。
○「後ろ手に子は手紙持ち母の日よ」情感がありますね。明確に描かれていて、普遍的な心ひかれる景です。
○「初任給手渡してゐる帰省かな」
○「打解けしいとこ同士や踊の輪」これがこの中でひかれました。よそものの疎外感と、血をわけあうものの言葉を超えた親しみが、なかなかない句だと思います。
家族、親族にまつわる作品が多いが、発想に奇抜なものはなく、比較的大人しい作品群という感じ。タイトルの意図がつかめなかった。
春愁ピアノの埃つよく拭く
この句は「つよく」に実感があって良かった。
全集の前の持ち主夜の秋
抽出しに方位磁石や夏の果
「全集の」は「前の持ち主」がまえに出てしまっている感じ、逆に「抽出しに」は方位磁石がクローズアップされていない感じ。
好みの問題もあるが、助詞の使い方を検討したほうがいい気もする。
【27 三分の一】
これは一番穏当な作品で、季語のとりあわせも想定の範囲内という感じですが、それゆえ取れる句が多かったので選びました。「春愁ピアノの埃つよく拭く」の「つよく」が春愁だから、という感じが出過ぎている気もする。「振り返りやがてまつすぐ入学子」の「やがて」というつなぎ言葉が惜しい気もする。「抽出しに方位磁石や夏の果」すでに詠まれているかもしれない。一番好きだったのは「全集の前の持ち主夜の秋」名前も顔も知らない前の持ち主に思いを馳せている。夜の秋のひんやりとした空気と古本の匂いが、ほどよい抒情を醸し出していると思います。全体として、丁寧に書こうとしている姿勢に惹かれましたが、もうすこし意外性や驚きを感じさせてほしかったのが物足りないところでした。俳句モードというか、俳句はこういうものを詠むものだ、という考えに無意識にとらわれている感じも若干しました。題の「三分の一」はよくわからないです。
題の意味は是非作者に聞いてみたいですね。
次です。
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【28 夏の谺】
夏館ソプラノ纏ふ天使像
一眼のあり向日葵も原子炉も
夏深し闇に伸びゆく倉梯子
いま吾子にはじめの記憶草清水
冷酒一盞雲滑らせて空は坂
泣き終へて松山鮨のどこ崩そ
木曜のくちづけ涼し切子玉
ラマダンの大皿に盛るダリヤかな
花火の夜人を待たせて遠目なり
二万年のちにも仔ども猫じやらし
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【28 夏の谺】表題に魅力あります。平明な詠み方ながら、ときに面白い素材の発見があります。ときおり常套手段が混ざるの惜しいです。
○「ラマダンの大皿に盛るダリヤかな」景美しいです。ダリヤとラマダン、遠いもののようで実は近かったのですね。かな止めの詠嘆もほんの少し嘆きを含んで。日中のつらさをダリヤで癒す。
△「二万年のちにも仔ども猫じやらし」ちょっと不思議なことを言っているが、季語でうまくまとまっています。そこはかとない物思いに会う季語。
素材と取り合わせに新鮮さを感じるが、助詞、動詞、語順などに推敲の余地がありそうにも感じる。
冷酒一盞雲滑らせて空は坂
「空は坂」という大胆な把握と清涼感に惹かれた。空と雲の順序がこれで良いかどうか。
【28 夏の谺】
〈ラマダンの大皿に盛るダリヤかな〉ラマダンとダリヤの取り合わせがよかった。色彩と質感と、空気感と、よく出ています。
表現にびっくりさせられるものがあり、良くも悪くも。
「二万年のちにも仔ども猫じやらし」
が好き句。
次です。
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【29 尾行】
テロリストの墓飾るための菊ことごとく
黒猫に尾行されてた月角曲がる
髪洗ふ巫女百人の紅き爪
チェシャ猫一番涼しい場所に浮いている
君の体届けに君の棺追ふ月夜
猫のゾンビ鼠のゾンビと虹ばかり
青い月。暗闇にリムられてゐる
最初の猫がまだ遊んでる宵闇
十年分の抗鬱剤ぶちまける秋の海
夜開く猫の保健室の風鈴
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【29 尾行】素材の面白さがところどころに光って。謎の提示がある句も魅力的です。類想と、「リムる」などこなれていない言葉の斡旋の句がどうでしょうか。
○「髪洗ふ巫女百人の紅き爪」この景の描き出し方が面白い。一人からカメラ引いたらずらっといたような。色彩も印象鮮明です。
△「チェシャ猫一番涼しい場所に浮いている」猫の習性をいいあてて。ひょうひょうとした語り口もあっています。
○「君の体届けに君の棺追ふ月夜」この世界観はかなりのもの。少し甘いが、悲しみを即物的に詠んでいて評価。
○「夜開く猫の保健室の風鈴」風鈴はこちらの句をとりました。
ファンタジックですこし病的とも言える世界で統一感はある。
言葉をもう少し削って整えるべきところがある気がする。
君の体届けに君の棺追ふ月夜
異様な発想ではあるがイメージが明確であり、「君の」のリフレイン、変則的なリズムが効果的。
モチーフへの偏愛を感じました。
「髪洗ふ巫女百人の紅き爪」
は季語が新しい響きを持っていて良いです。
【29 尾行】
〈猫のゾンビ鼠のゾンビと虹ばかり〉ムーンライダーズの「Rainbow Zombie Blues」を思った。ゾンビと言っても、なんか明るくてかわいい。ファンタジーっぽさが魅力になっている。映像的なんですよ。そこもよかったです。
次です。
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【30 夜の果ての旅】
忘却の革命の血のさくらんぼ
シエスタの人買ひ薄目あけて眠る
殺むれば音の気になる冷蔵庫
疲鵜にだいぢやうぶだいぢやうぶと云はれけり
八月の甘納豆を深読みす
へうたんにハイとこたへて魂(たま)抜かれ
ジョーホーホシジョーホーホシと秋の蝉
水澄むや一つ根に離れ浮く平和利用と核武装
心中の片割れとして盆をどり
「夜の果ての旅」に誘ひぬ夜学子は
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【30 夜の果ての旅】すごく面白い句が実はあるのに、句の粒とトーンが揃っていないのが残念です。オノマトペが理に落ちるのも惜しいところ。
△「シエスタの人買ひ薄目あけて眠る」この内容を、動詞で止めて詠んで成功しています。乾いた世界を。
○「殺むれば音の気になる冷蔵庫」ホラー系冷蔵庫句として。音に着目して怖さを出すのも○。
○「心中の片割れとして盆をどり」悲しみとおかしみが、おどりの輪のように渾然一体になった句。これも踊りの句にはまず無かった。
ナンセンスなおかしみを狙っていて、パロディ、あるいは本歌取りの手法を積極的に試している。
水澄むや一つ根に離れ浮く平和利用と核武装
大胆に字余りさせつつ「一つ根に離れ浮く」という本歌取りフレーズを挿入する技術は高い。
茂根さん
>悲しみとおかしみが、おどりの輪のように渾然一体になった句。
なるほど、です。
【30 夜の果ての旅】
タイトルで損してると思いました。セリーヌが強すぎる。そうすると最後の〈「夜の果ての旅」に誘ひぬ夜学子は〉でちょっとがっかりしてしまった。それをなしにして読むと〈シエスタの人買ひ薄目あけて眠る〉言葉が重なっている感ありますが、いい世界が描けていると思いました。
「シエスタの人買ひ薄目あけて眠る」
好き句です。三橋敏雄「顔古き夏ゆふぐれの人さらひ」
次です。
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【31 春雷】
風雪に曲がりし木々も芽吹きたる
或る日胸に春雷が落ち今がある
玫瑰や雨に消されし波の音
病葉の重なりゆける水の底
ひねくれし胡瓜どれもが無農薬
ふたりとは一人と独り夜の秋
砕け散る硝子色なき風となる
倒れてもおのれを曲げず曼珠沙華
音もなく翅を使ひし冬の蠅
星冴えて太古の空を取りもどす
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あ、敏雄の句、ぜんぜん関係なかったかも(笑)。
どの句にも独自の抒情的な発想があるが、オチというか結論を書いてしまっている句が目立つ。
たとえば
或る日胸に春雷が落ち今がある
の「今がある」など。
一方で、
病葉の重なりゆける水の底
は、淡々とした描写が謎を残していて美しい。
【31 春雷】風土が詠みこまれていて好感を持ちました。成句を使うときはその他の語の斡旋をもっと考えられるとよかったかもしれません。
△「風雪に曲がりし木々も芽吹きたる」雪深い地が描写されています。
○「玫瑰や雨に消されし波の音」これも海を臨む地の描写、雨の取り合わせが効果的。
○「病葉の重なりゆける水の底」大きなロマンすぎない。実景の描写ですが、この季語だと連想を駆使した句が多いので逆に新鮮です。
安伸さん
>病葉の重なりゆける水の底
は、淡々とした描写が謎を残していて美しい。
美しいですよね。
【31 春雷】
〈音もなく翅を使ひし冬の蠅〉冬の蝿の感じ、よく出ています。丁寧に詠まれているのもよかったです。
次です。
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【32 十点鐘】
一月三十一日 ジャイアント馬場
王道忌静かなる光源月明かり
四月二十八日 ルー・テーズ
鉄人忌しなやかな筋肉(にく)の美しき
五月十三日 ジャンボ鶴田
怪物忌書き掛け論文めくる風
六月十三日 三沢光晴
喉鳴らし猫の背伸びや翠玉忌
七月十一日 橋本慎也
豪雨去り天跨ぐ虹爆勝忌
七月十七日 ブルーザー・ブロディ
超獣忌雄叫びこだまし空を舞う
七月二十八日 カール・ゴッチ
偉大なる力の哲学ゴッチの忌
八月二十八日 山本小鉄
道場に古びた竹刀や軍曹忌
十一月二十五日 星野勘太郎
喧嘩屋の拳の早し突貫忌
十二月十五日 力道山
人を超え神となる意志力道山光浩の忌
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【32 十点鐘】もっともテーマ性があり、挑戦的な十句でした。全ての句が完成度高いのです。エンターティメント賞とかに。ひとつひとつの人物像はよく知らないのですが、補足する形で描写プラス忌になっている。大変うまい作りです。列伝になっているのがなんといっても面白い。
○ 一月三十一日 ジャイアント馬場
「王道忌静かなる光源月明かり」この句だけが、実際にお会いしたこともあり、時代的にもよくわかる人物でした。全てを背負っていたような立ち位置が、よく表現されています。
○ 十一月二十五日 星野勘太郎
「喧嘩屋の拳の早し突貫忌」どの句もそれぞれの人物像がわからなくても描写が忌日の名とマッチしているようで。忌日名のつけ方がこれは巧みでした。戦うスタイルを彷彿とさせる言葉を斡旋していて。
プロレスに対する作者の思いに対して、距離を感じてしまって楽しめない部分があった。
また、中七の字余りでリズムが悪くなってしまっているものが多かった。
【32 十点鐘】
これはぼくの好きな世界で、しかも構成や発想もよくて、ものすごい期待したのですが、俳句が観念的だったり、美辞麗句で終わっているのがひじょうに残念でした。
五月十三日 ジャンボ鶴田
怪物忌書き掛け論文めくる風
六月十三日 三沢光晴
喉鳴らし猫の背伸びや翠玉忌
こういう句が揃っていたら、選していました(でも鶴田と三沢を知らない人にはわからないか)。
ええと、プロレスほとんど知らないのですが、この熱くなってる作者像が読みとれて、人物詠むのに自分の心象加えちゃってるとことか、お気に入りなものに対する表現に全体としてなっていると思います。もう、好きなものには饒舌になってしまうのですよ、あえて。
僕はプロレスに明るくないので、深くは読めないのですが、直接的すぎるj表現が多いように思いました。
八月二十八日 山本小鉄
道場に古びた竹刀や軍曹忌
が好き句。
次です。
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【33 卯の花にほふ】
郭公や次男に妻のやうな嫁
青かへで小股の切れたをなご抱く
入道雲抱へきれないまま絶句
卯の花にほふ「かあさん」と言ふ口癖
残暑かな「雨ニモマケズ」を諳んじる
線香のけむり真っ直ぐ遠花火
時計草虫の音止むと泣く子かな
締め切り迫る鈴虫に部屋明け渡す
悪字を打つパソコン画面水中り
クマゼミ鳴くマイクを持った好好爺
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【33 卯の花にほふ】一句とても面白い句がありました。全体に直喩をもう少しひねりたいところでしょうか。成語の多用ではなく、修辞に独自性がほしい気がします。
○ 「入道雲抱へきれないまま絶句」これおかしいです。人事句としても、景としても、この世界は初めて見た句。
そういう気持ちは伝わりますね。作っていて作者は楽しかっただろうと思います。
それだけに読者としては置いてけぼりにされて寂しい感じ。
全体に素直な作品。
線香のけむり真っ直ぐ遠花火
対比の妙からドラマが生まれている。
【33 卯の花にほふ】
〈郭公や次男に妻のやうな嫁〉面白さが割れちゃってる(顔が割れる、の割れる)感がありますが、郭公ではなくてもったいぶった言い方にあった季語があるかなあと思います。
「郭公や次男に妻のやうな嫁」
はすごい問題句として読みました。ほのぼの系でなく。
最後です。
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【34 御来迎】
山彦に応へて手振る雲の峰
空眩し雲海の上に出でたれば
赤岩の頭と称へ雲海に
御来迎斜め後ろに立ちてゐし
御来迎虹に呑まれて消えにけり
駒草に近づけてゐる目鼻かな
駒草やカイゼル髭を撥ね上げて
駒草や八ヶ岳(ヤツ)の外れの天狗岳
マジックの校名かすれ大テント
天幕村に酒飲みに来し小屋泊まり
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これもテーマ性のある10句。
【34 御来迎】山岳俳句、詠むのもとるのも難しいですね。経験がこちらにないので、つい季語の印象でとってしまいがちです。自分が読めているのか申し訳ない気もします。その時点での感動が伝わりにくいので、もとより大きな感動的な季語の句より、小さな発見や行動に目を向けた句のほうが読み手に訴えるのかもしれません。
○「駒草に近づけてゐる目鼻かな」小さな足元に咲く花だが、急斜面などの崖地なので足をかけて顔を近く、という景をうまく表現していると思います。山へ行く方の憧れのような花ですが、目鼻という卑近なものを取り合わせて秀逸です。
△「マジックの校名かすれ大テント」
○「天幕村に酒飲みに来し小屋泊まり」物語性がある句。小屋の主の偏屈そうな描写にもなっています。山岳人事句ですね。
プロレス同様、登山も経験がないので想像で補うしかないのですが、
御来迎虹に呑まれて消えにけり
この句の景は圧巻だと思います。
【34 御来迎】
〈駒草やカイゼル髭を撥ね上げて〉上五中七のK音の頭韻の硬い響きが下五の描写を効果的に補強していますね。
捻ってはいないのですが、自身の体験という一回性を最大限に生かすことで月並みを超えるという作り方は全作品の中で特異点。
「御来迎斜め後ろに立ちてゐし」
「御来迎虹に呑まれて消えにけり」
などは確かに圧巻。
以上となります。
続いて、審査員各賞を決めていただきます。
〈駒草やカイゼル髭を撥ね上げて〉頭韻、気づかなかった、ほんとですね!心地よい響き。しかしカイゼル髭と駒草の形状は近いかな。
お疲れ様でした。
ぼくは特選の17「雨」で。
あ、お疲れ様でした。
猿丸さん
>ぼくは特選の17「雨」で。
分かりました。
他のお二人はどうされますか。
あ、すみません。
【16 ヴァカンス】でお願いします。
では25にします。
>しかしカイゼル髭と駒草の形状は近いかな。
音の響きがよかったけど、そこが惜しいところですね。
安伸さん
>【16 ヴァカンス】でお願いします。
了解です。
茂根さんは
【25 暮れる】
ということで。
捌きの特別賞も決めたいのですが、前回にならってそれはお楽しみにということで。
じゃあヒントだけは。
今度こそ以上となります。
審査に当たっていただいたhaiku&meのお三方、読者の皆様、本当にお疲れ様でした。
茂根さん
お三方の無点句から取ることにしました。
皆様、本当にお疲れ様でした。
はい、お疲れ様でした。皆様ありがとうございました。
お疲れ様でした。マラソン走った気分。
作者発表はまだ先か。じらすね。
たのしみにしています。
技術論に走ったり、添削しちゃったり、そこはまあ汲んでいただいて。ご容赦を。
みなさま、ありがとうございました。
猿丸さん
>作者発表はまだ先か。じらすね。
作者は来号の本誌で発表いたしますー。
あ、「来号の本誌」とはウラハイではなく週刊俳句のことです。
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