浅沼璞
鮨鮒やつひは五輪の下紅葉 高政
『古今俳諧師手鑑』西鶴編(延宝四年・1676)
ここのところ連句が続いたので、しばらくは発句を。
鮒ずしに用いる鮒を「鮨鮒」という。
ここのところ連句が続いたので、しばらくは発句を。
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鮒ずしに用いる鮒を「鮨鮒」という。
秋、重石の下のその鰭は紅色になる。
ちょうど食べごろで「紅葉鮒」ともいう。
それを五輪塔(墓石)の下の紅葉のようだ、と奇抜な「見立て」をしたのである。
土葬の匂いがどのようなものか知らないが、嗅覚にもうったえてくる句かもしれない。
(むろん鮒ずしの味わいがその臭気に裏打ちされているように、土葬における追悼の念もまたその匂いに媒介されていたかもしれないが)
作者はこうした奇矯な作風から伴天連社高政と呼ばれた京都談林の雄。
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作者はこうした奇矯な作風から伴天連社高政と呼ばれた京都談林の雄。
その発句を、大坂の雄・阿蘭陀西鶴が編著『古今俳諧師手鑑』で模刻・収載したのである。
談林の両雄、相まみえた感じだ。
とはいえ師・宗因の死後、ふたりは真逆のコースをたどる。
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とはいえ師・宗因の死後、ふたりは真逆のコースをたどる。
俳諧師に加えて浮世草子作家としても活躍し始めた西鶴を尻目に、高政は目だった活動をしなくなる。
ついには生没年すら未詳で、〈つひは五輪の下紅葉〉は予言的ですらある。
そんな高政の一句、現代のゴリンピッ句として読んだなら、どうであろう。
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そんな高政の一句、現代のゴリンピッ句として読んだなら、どうであろう。
熱中症の真っ赤なイメージは言わずもがな、海の異臭という嗅覚的な危機感も手伝って、やはり予言的なものを感じさせはしないだろうか。
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